Un gato lo vio −猫は見た

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楽園のカンヴァス  原田マハ

アンリ・ルソーの大コレクターであるバイラーは死期を悟り、所有する大作を世界的権威に鑑定依頼して優れた講評を述べた人物に取扱権を譲渡すると決意。選ばれたのはMoMAアシスタントキュレーターのティム・ブラウンと新進気鋭の研究者、早川織絵。

真贋の判定方法は、7章からなる書物を毎日1章ずつ読み進めるという奇妙なもの。MoMA所蔵「夢」に酷似した「夢を見た」は果たして本物なのか、いずれが勝者となるのか、そして譲渡の意図は。

ストーリー展開のスリリングさもさることながら、作者の絵画作品に対する姿勢が興味深かった。作中の主要人物は何百時間も一つの作品と対峙し、作家の意思、情熱を探り当てようとします。もちろん、原田さん自身も同様か、それ以上の熱意を持って対象作品に向かい合っているでしょう。1つの作品からこのような物語を紡ぎ出すほどなのですから。

新しい視点を与えてもらえるとはなんと楽しいことだろう。私自身も「日曜画家」レベルじゃないの? と見ていたルソーに対する別な視点を教えてもらいました。

そして、他の画家に対しても柔軟な心、素直な気持で作品に対峙したいと思いますね。これまで、原田さんや、作中人物と同じように、とことん絵画作品に向き合ったことはなかったなあ。

作中に現れるルソーの物語だけを独立させ、細部をもっとふくらませても興味深い作品になりそうです。

 

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ある愛へと続く旅

オリンピックを目前にしたサラエボで出会ったジェンマとディエゴ。結婚後、子どもが授からない夫婦は思い出の地で代理母出産に踏み切りますが、民族紛争が勃発したサラエボで2人は離ればなれとなり、やがてディエゴ死亡の報が届きます。
16年後、往時の友人、ゴイコに招かれたジェンマは息子ピエトロを伴ってサラエボを訪れ、そこでピエトロ誕生にまつわる驚きの事実を知ることになるのでした。

役者がしっかり演技しているのに、各シーンに深みが感じられず、映画に求心力が働いていない、深刻なテーマをうまく捌けていない、などとくさしていたのに、母子がゴイコの自宅を訪ねる最終場面で印象が一変しました。

それまでは情熱的なジェンマに比べて彼女を取りまく人物がうすっぺらに感じられたのです。しかし、核心となる事実を知ると、実際には彼女以外が善意に満ちた利他的な人物ばかりで、むしろ、ジェンマの利己的な性格が浮き彫りになってしまうのでした。

でも、この映画はそこで終わりません。真実を知った彼女が、他の人物たちに劣らぬほど利他的な人になるであろう可能性を示しているのです。ジェンマが覚醒すれば善意の環が完成する。

そしてもうひとつおまけが。なんとも意地悪いことに、最後の最後に新たな悲劇の種が捲かれていて、なかなか一筋縄ではいかない映画なのでした。

 

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ウォーターメソッドマン ジョン・アーヴィング

映画「ホテル・ニューハンプシャー」は、登場人物が勢ぞろいするラストシーンが最高でした。生者も死者も、好い人も悪い人も、熊も犬も、みんなが笑顔でホテルの庭に集う様子は、原作に通底する人生賛歌を肯定的に表現しています。

この場面、小説にもあれば良かったのにと思っていたところ、なんと、別の作品にその原型を見つけてしまいました。

最近は新刊本に気を惹かれることもなく、もっぱら過去のお気に入りを再読していまして、先日選んだのはアーヴィング2作目の長編「ウォーターメソッドマン」。
不器用すぎて2人の妻と子ども、友人や親などに迷惑ばかりかけているトランパー君が、ついに自らの責任を意識して大人になろうと決意するお話。

あまりの駄目さ加減に(自分を見ているようで)いらいらし通しでしたが、誰もが人生を謳歌すべき、生きているって素晴らしいんだから、と達観する最終章。明け方の海辺で起き上がろうとするトランパー君を祝福するかのように、家の窓が開き、家族や友人が朗らかに声をかける場面はまさに、ニューハンプシャーのラストシーンそのもの。

映画の脚本家がこの最終章からアイディアを拝借したのだとしたら、やはり目の付け所が良いと唸らざるを得ませんね。

 

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4321 ポール・オースター

アーチー・ファーガソン君の誕生から青年時代までを描いた成長物語。
彼は激動の50年代〜70年代に青春時代を過ごし、様々な喜びや苦しみを経て成長していくことになります。その後の世代として生まれた私は、憧れの時代の雰囲気を自分の肌感覚を通して味わっているような気分に浸れました。ただ、それで終われば、よくできた小説というだけの話。ところが、オースターはこの小説にとんでもない仕掛けを用意していました。

あのとき別な道を通っていたら何が起きたのだろう、違う学校に進学していたらどんな仕事に就いてたのだろう、そんなあり得たかもしれない違う人生を想像することないですか? オースターはその問いの答えを「4321」で示そうと試みているのです。そう、なんとアーチー君の4つの可能な人生を並列して展開しているのです。だからこそ手に取ることが憚られるような分厚さ。つまり4冊分なんですね。

読み進むに従ってタイトル「4321」の意味が分かり始めるし、最後の最後に「百年の孤独」のラストを思い出させるようなオチが用意されています。ええっ、そう来るの?!

並行して進む彼の複数の人生を眺めていると、自分の人生も偶然(あるいは必然?)の積み重ねでここまで到達してきたことを実感するし、その歩みが唐突に断ち切られる可能性だってあるんだと、ある種のあきらめも感じます。人生は自分に都合良いように進んではくれない。

オースターの経歴と見比べてみると、作者自身がモデルなのは明らか。最近、過去を振り返る著作が続いていましたので、その集大成という意味合いもあるのかな。どの人生でも、もれなく恋人が見つかってしまうのは憎いけれど。

 

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