Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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騎士団長殺し

友人から譲ってもらい、遅ればせながら読了。
春樹さんは自分の目指す小説に近づけたのだろうか? といらぬ心配をしつつも、馴染んだ文体をいつものように楽しませてもらいました。

村上作品は、作家本人の意見が反映される装幀も見どころのひとつです。カバー装画の剣もよく見ると羊のデザインが施されていたりして、往年のファンをニヤリとさせてくれます。

見返しの紙は色も含めて何となく日本画や掛け軸の表装を連想させるし、各章のタイトルも工夫が凝らされていますね。装幀に係わる人たちがわいわい楽しみながら作業していたのではないかと想像してしまう仕上がり。なんとも幸運な本です。

 

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彼は秘密の女ともだち

最愛の妻ラウラの死後、女装癖が顕在化したダヴィッド。ラウラの親友クレールはそんな彼をヴィルジニアと名付け、秘密を共有するとともに唯一の理解者となります。ダヴィッドはやがてヴィルジニアとして生きることを決意。クレールは自分の気持ちに正直に生きようとする彼/彼女を応援するうち、女としてのヴィルジニアに惹かれてしまい…

いつものように独特なあくがあるものの、人生を肯定しようという、オゾン監督らしい明るくハッピーな映画でした。

クレール役アナイス・ドゥムースティエの自然体が良かったなあ。あまりに普通なので、なんだか知り合いのような気がしてきます。そんな彼女が自分の中に同姓への嗜好があると気づき、女と認めたヴィルジニアに身を任せようとする場面が個人的ハイライト。私って、そいいう人なの? と戸惑う表情が良かった。そして、いくら女を宣言してもヴィルジニアの肉体は男。いざとなったら逃げ出してしまう(やだ、この人、女じゃない!)あたりが笑えました。

お二人さん、よき女友達として末永く付き合い続けてくださいね。

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アンナ・カレーニナ

離婚騒ぎでもめる兄夫婦の調停にモスクワへ向かったアンナは、そこで貴族の軍人ヴロンスキーに出会います。彼は社交界デビューを果たしたばかりの少女キチイをものにしようと目論んでいましたが、アンナの姿を認めるや、素早く目標を変更。美しく高い精神性で評判を呼んでいたアンナですが、やがてヴロンスキーと恋に落ち、夫と子どもを捨てて破天荒な人生を歩み始めることに。

一方、ヴロンスキーに振られたキチイは、野暮ったくも実直な領主リョービンの求婚を受け入れて田舎へ移り、理想の農地経営に燃える夫を支えることになるのでした。

2組の夫婦の対照的な歩みを中心に物語は進み、そして、中盤以降は破滅に向かって突き進むアンナの混乱ぶりが際立ってきます。
アンナ、どうしてしまったんだよ、とやきもきする一方で、19世紀末のロシアが置かれた状況にどんどん惹きつけられていきました。

トルストイは膨大な登場人物を配し、宗教、農地解放、革命、男女格差と離婚、国際政治、そしてロシア人のアイデンティティなど実に様々な問題を取り上げています。そこには世界はもっと良くなるはず、人はもっと賢明になれるはず、という作者の熱意があふれ、読み手に「そう思うだろう」と力強く語りかけているように感じるのでした。

トルストイ渾身の力技、未読の方は是非一読を。最後まで飽きさせませんよ。

 

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高瀬舟

京都を南北に流れる高瀬川。同心の羽田庄兵衛は弟殺しで遠島に処された喜助を舟で護送しますが、罪人らしからぬ素直な心根を不思議に思い、罪を犯した理由を尋ねてみることに。

幼くして両親と死に別れ、その後も不運に見舞われ続けた喜助兄弟。やがて弟は病を得てしまい、兄に迷惑を掛けたくないと自害を企てますが、カミソリでのど笛を切っても死にきれず、帰宅した兄にひと思いに逝かせてくれと幇助を願います。

医者を呼んでも間に合うはずもなく、苦しみから解放してやろうとした喜助の行為は殺人なのか? 庄兵衛は言葉を失い、二人を乗せた高瀬舟は夜の川を下り続けるのでした。

映画は基本的に小説を忠実に再現していますが、奉行が裁きを下すシーンを加えています。
この奉行、裁かれる人物が置かれた状況を全く斟酌しない杓子定規で情のない役人として表現されています。「だから役人は嫌いだ」と毒づいた私でしたが、しかし、遠島とはいえ、居場所を与えてもらって感謝するという喜助の言葉に、待てよ、と思ったのでした。

仮に無罪を言い渡されたとしても、喜助はこの世に身よりも居場所もありません。仕事を得られるかどうかも定かではない自由な暮らしより、罪人として住む場所を与えてもらった方がまし。もしかしたら、あの奉行はそこまで察して有罪を言い渡したのではなかろうか。でなければ、わざわざ付け加えた意味もないような。

共に小品ながら余韻の残る映画と小説でした。

 

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