Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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パターソン

朝6時15分前後に起床、妻に「まだ寝ていていいよ」と声を掛けたのち一人で朝食。通勤途中で詩作にふけり、発車前のバス運転席でノートに書き留める。つつがなく仕事を終えて帰宅すると、エキセントリックな妻の行動にちょっぴり驚き、ユニークな夕食の後は愛犬を連れて夜の散歩。馴染みのバーに立ち寄り、ジョッキ一杯のビールを楽しんで帰宅、そして就寝。

これが、ニュージャージー州パターソンに暮らすバス運転手パターソンの日常です。
特にドラマチックな出来事も起きず、判で押したような毎日。
世界中の普通の人は、程度の差こそあれ、パターソン君と同じように変わりばえのしない毎日を送っているはずです。

なんて退屈な私の人生、と感じている人に薦めたい映画ですね。一見金太郎飴を切ったような人生でも、毎日小さな出会いがあったり、おやっと感じる出来事が起きたりするものです。それをどう受け止めるか。

世界に心を開いてさえいれば、ありふれた人生も詩のように美しく感じられる。「ナイト・オン・ザ・プラネット」や監督が出演した「ブルー・イン・ザ・フェイス」を思い出させる映画でした。Aha

 

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残像

カンディンスキーやシャガールとも親交のあったポーランドの前衛画家ストゥシェミンスキ。第二次世界大戦後のポーランドでは共産党による統制が進み、芸術も社会主義実現に寄与する表現に制限される。
美術大学で教鞭を執るストゥシェミンスキは「芸術は新たな表現を求めるもの」として、党の方針に反発。そんな彼を英雄視する学生たちには慕われ続けるものの、職場を追われ、画家組合から除名され、生活の糧を失っていく。

予告編を見た限りでは、信念を貫き通して体制に抵抗し続けた芸術家の生き様を描いた作品だろうと予想していました。
実際、その通りだったのですが、「信念を貫き通す=美しい」という単純な価値観ではなかった。

確かにストゥシェミンスキは己の芸術を追究しようとしますが、食べていけない現実は厳しかった。困窮し、ついに意に沿わぬ仕事さえ引き受けたとしても(スターリンの肖像を描くなんて…)、幼い娘を抱える身であれば仕方ありません。親であれば己の主義より、子どもの安全を優先するのは当然です。

しかし、党は容赦しなかった。ストゥシェミンスキは信念を曲げて獲得した小さな仕事までも次々と奪われ(社会主義国家で仕事を与えられないってどういうこと?)、失意の内に最期を迎えてしまうのです。

個人の抵抗など国家という巨大な組織には痛くもかゆくもない、ということなのでしょうか? このやりきれない気持は初期の「世代」や「地下水道」を観た後と同じです。いつの日かワイダ監督の意図を理解できると良いのだけれど。

 

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そして、デブノーの森へ

デビュー作「冬の旅」で文壇の寵児となったセルジュ・ノヴァクことダニエル。義理の息子の結婚式に向かう船中で魅力的な女性ミラと知り合い一夜を過ごしたが、なんと彼女は息子の花嫁だった。
そして、ミラの登場は偶然ではなく、「冬の旅」盗作を巡る大がかりな復讐劇の始まりに過ぎなかった。

緊迫感漂う展開に引き込まれるうち、ついつい事の真相を解明したくなってしまい、あれこれと頭を悩ませてしまいました。
そもそもダニエルが下した決断の理由が腑に落ちないし、最後にはダニエルと自殺した友人ポールが入れ替わっていると示唆するかのようなシーンが用意されています(そうなると、いろいろと辻褄が合わなくなりますが…)。

いったい、どうなっていたんだ? と映画を振り返ると「人は単純ではない」と言ったダニエルの言葉が思い出されました。
そう、人間の思考や感情は複雑なものだし、本人だって完全に理解しているとは言いがたい。
そう思えば、この映画の見どころは謎解きではなく、本人の意思に反して移ろいゆく人の気持ちの不思議さ、抑えきれずに噴出する感情の高まりにあるのだと感じられてきます。

謎は謎のままに残しておけばいいのでしょう。複雑なものごとを分かりやすくまとめて解決したつもりになっていては、人生の機微を味わうことができない、そう教えられたような気がします。

 

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赤いアモーレ

クルマが故障した外科医ティモーテオは通りかかった掃除夫イタリアに電話を借り、一目で彼女を気に入ってしまう。
妻と不足のない暮らしを送るティモーテオだったが、イタリアへの思いは狂おしいほど。やがてイタリアは子を身ごもり、ティモーテオは人生の判断を迫られる。

情欲におぼれた身勝手な男の独りよがりな愛の行方を描いたお話、と言ってしまっては身も蓋もないけれど、役者の演技力によって人の世の辛さを感じさせる印象的な映画に仕上がっていました。

ティモーテオは妻との暮らしを守るべきかイタリアと新しい人生を始めるべきか大いに葛藤しています。一見感情に乏しい表情は、判断に苦しみ、あらゆる思考が停止してしまったが故なのかもしれません。
イタリアのゆがめた口元やがに股歩きは見ていて切ないなあ。身に降りかかる悪事をあきらめと共に受け入れる姿。ペネロペ・クルスは幸薄い人生を体当たりで演じていました。
そして、夫の心をつかめない不安に怯える妻エルサ。不幸を予感しているかのような表情に私の心も揺れました。
これが俳優の演技というものでしょう。

ティモーテオは多くの人から勝手な男とそしられるだろうし、私もそう思います。
一方で、制御できない感情に突き動かされて逸脱しても構わないと思う気持ちも理解できる。社会規範からはみ出さず、良識ある人として暮らすことは難しいものです。

ところで、邦題ひどすぎませんか?
ソープオペラみたいだな。

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