Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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初恋

受験を控えた夏を過ごすため、両親と共にモスクワの別荘を訪れたウラディーミル(ヴォリデマール)君、16才。隣家に滞在していたのは夫の死で困窮生活を余儀なくされた公爵夫人と21才の美しい娘ズィナイーダ。

一目で恋に落ちたウラディーミル君でしたが、ライバルが目白押し。こりゃあ、最年少の自分に勝ち目はないなあ、と思いつつ、あこがれのお姉様を追いかけ回すのですが、実は本当のライバルが意外なところに潜んでいるのでした。

種明かししてしまいますが、ズィナイーダがあこがれたのはウラディーミル君の父親。なんという、嫌な状況でしょう。

妻が10才年上で、金銭尽くの結婚だといっても、息子の恋愛対象を奪うことはないじゃないですか。40にして迷わずどころか、ズィナイーダを別邸に囲ったり結婚を迫ったりと、若者顔負けの猪突ぶり。息子の人格形成に影を落とすなんてことは想像の埒外のようです。ああ、こまった親父だ。でも、それが恋というものなのかなあ。

奥付の発行日を見ると、私は高校1年か2年の頃にこの本を読んでいたようです。でもあの頃、本当にこの物語を楽しんだとは思えない。再読して良かった。併載の「片恋」は一転して、煮え切らない性格故に恋を失う男のお話。これも同様楽しめました。

が、どちらにしろ、貴族のお坊ちゃまたちは気楽で好いよなあ、という身も蓋もない感想も浮かんだりするのです。

カバー写真の女優が気になって調べたところ、なんと、ドミニク・サンダでした。映画「初恋」が3作目。
デビュー作「やさしい女」ではトラブルのにおいを紛々とさせた挑戦的な視線が印象的でした。
映画も観てみたいな。

 

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おやすみなさいを言いたくて

世界の紛争地区で報道写真を撮り続けるレベッカ。誰かが真実を伝えなければならないという強い衝動を家族が理解していると思っていたが、夫も2人の娘も彼女が死亡する可能性に怯え続けていた。
 

報道写真家であるより家族を選ぼうと一度は決意するものの、彼女の中にある「怒り」が収まることはなく、再び紛争地へ向かうことに。しかし、長女との関係修復を果たしたレベッカは、これまでどおり冷静な目で取材対象を見ることができるのだろうか。
 

正義感と家族への愛の間で揺れ続けるレベッカ。報道写真家としての資質を失うかのようなエンディングでしたが、私は彼女が立ち直り、最終的には仕事を選ぶような気がします。
 

人の仕事観は大別して2つ。仕事のために生きるか、それとも、生きるために仕事をするか。どちらが正解ということはありませんが、仕事観の違う2人が家庭を持てば、そこが紛争地帯になることは避けようがありません。
 

レベッカの正義感は間違っていない。そして、妻であり母親である彼女の身を案じる家族の気持ちもまっとうなものです。ただ、それは共存できない。相容れない理性と感情が切ない人の世です。

 

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若冲  澤田瞳子

芸術に接するとき、作品のみを鑑賞してその存在を味わう、または、作家の境遇を知り、創作の苦心を斟酌しながら味わうといった異なるアプローチがあると思います。若冲はその生涯が明らかになっていないため、近年では(辻惟雄さんが再発見した後)作品そのものの力だけで人々の心を掴んできました。ところが、澤田さんが苦悩に満ちた絵師の人生を描いてくれたことにより、絵に込められた思いを想像(妄想)しながら鑑賞するという楽しみが開けました。

もちろん、小説は想像の産物。あくまで小説家の創作ですから、若冲作品の正しい解釈というわけではないでしょう。でも、こんな風に想像することも可能なんだと示してくれたことに目から鱗が落ちる思いでした。

若冲の詳細すぎる彩色絵に対して、現在は「動植物の姿がリアルに描かれた生命賛歌」という感想が多数を占めています。しかし、澤田さんは「鬱屈した異様で生気を感じない絵」だと評し、その原因を架空の設定及び人物の存在に帰しています。いやはや、小説家の面目躍如というところですね。

そんな澤田さんも「鳥獣花木図」だけは生の喜びに満ちた作品だと評価し、若冲の到達点として扱っています。小説を読み進むうち、3年前、実際にこの目で見た折の心の昂ぶりが甦ってきました。あれは本当に楽しい絵だった。そして、己の独自性を屈託なく自慢しているようにも感じられ、いつまでも絵の前から離れられなかったことを思い出します。

 

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危険なプロット

生徒の稚拙な作文にうんざりしていた高校教師のジェルマンは新学期を迎え、クロードが提出した課題に惹きつけられる。友人の家庭をのぞき見的に描写した文章に才能を感じたジェルマンは熱心な指導を行いながらその虜となり、ミイラ取りがミイラになってしまうことに…

人の心の奥にあるものを見透かし、手玉に取ってしまうティーンエイジャー。こんなやつがいたら嫌だなあ。私は歳は食っているけれど、絶対に操られてしまう。

オゾン監督の映画には独特なアクがあるけれど、私の好みには良く合いまして、既に何作も楽しませてもらいました。
キャスティングも好みです(過去はランプリングとドヌーヴが良かった)。学校では尊大な態度を取りながら、家庭では従順な夫を演じるファブリス・ルキーニ。見る者に嗜虐心を芽生えさせるようなとぼけた味わいがナイスでした。

 

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