Un gato lo vio −猫は見た

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リスボンに誘われて

人生の退屈さに失望するスイスの高校教師ライムントは、偶然手に入れた書物に心奪われ、若くして亡くなった著者の生涯を知ろうとリスボンの関係者を訪ね歩くことに。やがて明らかになるのは独裁政権下で闘ったレジスタンス同士の友情と裏切り。同志の間に何が起きたのか。

全貌を明らかにしたライムントは、疑心暗鬼に陥って関係を断絶した同志たちの心を再び結びつけてくれたように思います。一方、彼らの人生に比べて、やはり自分の人生は無意味で退屈だと失望の念は深まるばかり。

しかし、ライムントは衝動的にリスボン行き列車に飛び乗ってしまう情熱家の一面を持ち合わせています。現地で調査の手助けをしてくれた女性が熾火のようにくすぶっていたライムントの心の熱に惹きつけられ、魅力的な提案を投げかけたことがその証しです。
決して退屈なだけの人生などない。ライムントと共に静かに励まされるエンディングでした。

それにしても、作者の生涯をたどりたくなるほどに1冊の本に深く共感したことがあるだろうか? 私の情熱はライムントに遠く及びません。

 

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痴人の愛

増村監督の同名映画は小沢昭一の怪演が光り、最後の最後で純愛の物語へ転換させる監督の腕前にうならされました。一方、原作のナオミは妖婦を、譲治はマゾヒスティックな態度を貫き通しています。あくまで自由奔放な女とひれ伏し続ける男。増村さんは譲治君を哀れに思い、救いを用意したのかな、と感じますね。

ただ、小説の譲治君に救いは無要。自分が目をつけ、理想にかなうよう教育を施し、そして想像以上に花開いてくれた女です。淫蕩な性格まで育ってしまい、嘘を重ねながら大勢の男と関係を持つようになってしまったことは計算外でしたが、西洋人のような容姿や魅惑的な足(脚)に抗うことは不可能なのです。

譲治君にとってナオミは神なのでしょう。古今東西あまた存在する(?)神様の例に漏れず、ナオミ神もとても意地悪です。無条件の崇拝を受けながら、与えるものはわずかな恵みと多大な厄災。でもだからこそ、振り向いてもらえたときには恍惚感を覚えてしまうのでしょう。

谷崎潤一郎を読み続けていくと、人にはある種の力に盲従したくなる傾向が隠れているのだな、と感じるようになります。今は人の命に従うことが難儀だと感じている私も、もしかしたら何かをきっかけとして、そこに悦楽の境地を感じてしまうかもしれない。おお、やだやだ。怖い作家です。

 

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アスファルト

日々の暮らしに絶望するほどではないけれど、なんとなく人恋しいことってありますよね。
この映画は、若干の寂しさを抱えた3人の団地住人が、同じ日にそれぞれ出会いに恵まれ、ほんの一時心を通わすお話しです。

その出会いにドラマチックな要素はなく、大きく発展することはなさそうです。実に地味。自分の身に起こったとしても、誰かに話したくなるほど心が浮き立つこともないでしょう。

でも、等身大で描かれる登場人物たちの心の動きは、ささやかだけれど手に取るように感じられます。リアリズムを少しばかり無視した設定(宇宙飛行士が降ってくる、意識を失ったまま100キロもエアロバイクをこいでしまう)によって、人の心の本質をむしろリアルに際立たせるようです。映画の絵面としても面白い。

たとえ短い時間だとしても、誰かが傍にいるってすてきなことです、きっと。

そうそう、映画内で「マディソン郡の橋」がテレビに映し出されるんだけれど、甲高いフランス語吹き替えのイーストウッドが笑えました。

 

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