きもの 幸田文
その昔、呉服販売にも携わったことがあり、なんとなく着物のことは知っているつもりになっていました。でも、着心地については考えたこともなく、肌触りを重視する主人公るつ子の着物選びに目から鱗が何枚も落ちることとなりました。
なるほど、肌に触れる感触は重要ですよね。実際に身にまとったことがない故の盲点でした。
大正末期の東京下町で両親、祖母、2人の姉と暮らするつ子の物語。着物への接し方を通して彼女の成長を見届けることになるのですが、実に清々しい読後感です。
美しい心の持ちようを記録したような小説で、読んでいると、自然に背筋が伸び心が澄み渡るのを感じます。
るつ子の世界観を正しい方向に導くのは、小利口でさもしい根性を嫌う祖母。決して高圧的ではなく、時宜にかなった適切な教えは、読み手の私の心にも素直に響くのでした。
なんだか、るつ子と机を並べながら世の中のことを学んでいく気分です。ああ、覚悟して服を着たことなんかなかったなあ。
この小説、中身もさることながら、装丁も素晴らしかった。まさに着物をまとっているようで、手に取る楽しさも格別でした。文庫やデジタル本では味わうことのできない贅沢です。これが100円だなんてねえ。
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