陰翳礼讃
江戸期までに作られた美術品・工芸品をろうそくの灯りだけで鑑賞する、という企画を、以前、日曜美術館で見たことがありました。
ほのかな光に浮かび上がる金銀の装飾は、隅々まで照らす明るい照明の下とは全く異なる姿を見せ、幽玄な印象を抱いたことを覚えています。
その効果を谷崎潤一郎は昭和初期に示していました。さすがですねえ。
手に取った文庫には、他に「恋愛及び色情」「懶惰の説」「旅のいろいろ」などの随筆も収録され、うん、うんと頷きながら楽しむことができました。
というのも、これ、基本的には「今の文明は味気なさすぎる!」と嘆く老人(とはいえ、この時40代後半)の繰り言だからなんですね。もちろん、目の付け所と文章の操り方はさすが文豪ですから、さまざまに唸らされることになりますが、基本的な心情は年配者に共通のもの。そうだよねえ、と共感するんだなあ。
きっと、落語の「小言幸兵衛」のように、目につくものを片っ端から文句をつけて歩いたんだろうなあ。歴代奥様やその姉妹たちは作家に心酔していただろうけれど、女中さんたちは「また始まった! 本当にうるさいんだから」と陰口をたたいていたに違いない。そんな妄想に耽りながら読んでいると、なおのこと楽しいです。
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