べつの言葉で
小説とエッセイではずいぶん雰囲気の違う文章だな、と思いながら読み進めるうち、なんと、英語ではなくイタリア語で書いていることが判明。違和感を感じた理由の一部はそこにあるのかもしれません。
それにしても、驚かされました。旅先で耳にした現地の言葉に心惹かれて習得に励む、これは分かります。でも、それから20年後、イタリア語に囲まれた生活を送りたくてローマに移住。そして、1年の後、あえて不自由な言語で雑誌に連載を始めるなんて、いったい何が彼女をそうさせるのでしょう。
両親の母語であるベンガル語、自分を育てた継母とも言える英語。ラヒリさんは、この2つの言語と2つの文化、どちらからも余所者と見なされているように感じていたそうです。そんな時、自分にとって完全な外国語であるイタリア語を学び、その不自由さ、完全な異邦性の中に新たな創造の可能性とアイデンティティを見いだしたと言うのです。
外国語で執筆する現代作家は(不明にして)他に知りません。これまでの作風と、その到達点である「低地」に心動かされた私にとって、彼女がこの先どんな作品を世に送り出すのか楽しみなようでもあり、恐ろしいようでもあります。創造に対する飽くなき情熱が新たなラヒリワールドの成功につながりますように。
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