Un gato lo vio −猫は見た

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低地



革命組織に属する弟ウダヤンと、米国で研究者となる兄スバシュ。弟が命を落としたとき、兄は身重だった弟の妻ガウリを引き取り、米国での新しい暮らしに希望を託しました。しかし、ガウリはスバシュと幼子を捨てて別な人生をもとめます。ウダヤンの死が影を落としたそれぞれの人生に待ち受けるものは…

ジュンパ・ラヒリの最高傑作です。後に彼女のキャリアを振り返ったとき、「停電の夜に」と並んで代表作の1つに数えられることは間違いありません。

テーマや技法に関する賛辞はそれこそ枚挙にいとまがないようですが、私が特に感じ入ったのは、冷静に、そして緻密に重ねられた言葉の間からもれ出る熱い感情でした。制御しようとしてなおあふれる熱。作家自身の魂を目の前にしているような気がします。

そして、優れた作品が往々にしてそうであるように、個人的な詳細を積み重ねることで普遍性が生まれているように思います。登場人物の一人ひとりに対して、そこに己の姿を見ないわけにはいきませんでした。人生に於ける共通点が1つもないにもかかわらず、そこに描かれているのは自分だと感じてしまうのです。

アリステア・マクラウドの短編集「アイランド(「灰色の輝ける贈り物」「冬の犬」)」は私の物語だと胸が震えたものです。そして、自分の魂をリアルに映し出すもう1つの作品に出会うことができて、その幸運をかみしめずにはいられません。
 
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やさしい女



若く美しい客に惚れ込んでしまった質店の主。貧しさからの救済と称してプロポーズしたものの、結婚間もなく2人の関係は冷え切ってしまい、映画冒頭シーンの悲劇へ。

切り詰めた台詞など、技法から見た本作には高い評価があるようです。17歳で映画デビューというドミニク・サンダの存在感も賞賛の的。その詳細は各種サイトなどをご覧いただくとして、個人的にはエンターテイメントとして見るのは辛かったという感想です。

なにしろ3人の登場人物共に台詞がなく、表情に乏しい。心の内を探る頼りは視線だけですからね。合わせるかのように、セットや街の風景も寒々としているし、映画の作法に長けた人でなければ楽しめないんじゃないかなあ。私は途中で少し寝ちゃいました。ははは。

下世話な視線で見た感想を一言で述べるなら「質屋の男は思慮が足りなさすぎる」ということですね。
いかに美しいとはいえ、彼女には最初からトラブルの匂いがつきまとっています。挑戦的な視線、必要以上に無愛想な態度。他者とまともな人間関係を築こうという意志は一切感じられません。



だからといって彼女を非難するのは筋違い。なんらかの過去が女をそのような人間にしてしまったのであって、その点ではむしろ同情心を持ちながら彼女の心情を理解してあげるべきだったでしょう。
非難されるべきは男です。結婚に懐疑的な女と強引に夫婦となりながら、彼女の心情をおもんばかろうとはしません。彼の心に浮かぶのは「なぜ、そんな態度/行動を取るのか? やさしい女になってくれよ」ということばかり。

互いに打ち解けられないことがはっきりしたなら、別れるべきでした。心に傷は残るだろうけれど、人ひとりの命を空しくすることはなかったはず。

とは言え、そんな展開になったら、映画として成り立たないんですけどね。
 
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蜘蛛巣城



物心がついた頃、三船敏郎といえば無口で頑固一徹な役どころばかり。三國連太郎と共に「傍に寄るのが恐い」タイプの双璧を成していました。ハリウッドのコメディーに出演した際もタフガイなんですから、人に弱みを見せるところは想像もつきませんでした。

ところが、1957年制作の「蜘蛛巣城」では、心の弱い武将(鷲津)役を演じていました。「お前は城主になる」という物の怪の予言を信じ、「せっかくの機会を逃すな」という妻の恫喝(!)に背中を押されるまま、主殺しを実行。
しかし、鷲津は武将に向かない性格らしく、良心に苛まれて精神に異常を来すことに。そして愛想を尽かした部下の手で哀れな最期を迎えることになります。

心を蝕まれて見えないものに怯え、(おかしな言い方ですが)ダイナミックに変調を来していく演技が斬新でした。やっぱり、なんでもこなせるんだ、もっと人の弱さを見せる役を見てみたかったと思うのでした(と言うほど見たことあるわけじゃないけど)。

嵐のように襲い来る矢に恐慌を来す鷲津の姿。これは一見の価値ありです。
そうそう、妻役、山田五十鈴の能面のような表情も恐かった。物の怪なんて問題にしないくらいの迫力でした。
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アンジェリカの微笑み



予告編で横たわるアンジェリカの姿に「これはオフィーリアだ!」といたく興味をそそられて足を運んだのですが、「ええっ、これでお終いなの?」というのが、終了直後の率直な感想。なんだかぽかんとしてしまいました。

ポルトガルに逃れ住むことになったユダヤ人青年のイサク君。若くして亡くなった資産家の娘アンジェリカを写真に撮るよう依頼されたのはいいのだけれど、次第に恋心を募らせ、あろうことか、あの世に連れ去られてしまうのです。

うーん、シャガールの雰囲気を加えたコメディタッチの「牡丹灯籠」ですな。でもアンジェリカは生前イサクのことを知らないわけだし、連れて行くなら夫を連れて行けよと突っ込みたくなりました。

設定は現代ですが、イサク君がナチスの迫害を逃れてきたことを示唆していたり、短波ラジオを聞いていたりと、時代に妙なずれを感じます。もちろん電話やテレビなど登場しません。

でも、ポルトガルの渓谷沿いに広がる小さな町のひっそりした美しさが些細な矛盾を怪しく呑み込んでいるようで、ここなら何が起きてもおかしくないな、と感じるのでした。
監督のオリヴェイラさん100歳の作品だそうで、常人とは違う世界観に到達したのでしょうね。



イサク君が暮らす下宿が良かったなあ。気のいい女将さんがいて、ちょっと不思議な住人たちがいて、品の良い「めぞん一刻」風でありました。

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