低地
革命組織に属する弟ウダヤンと、米国で研究者となる兄スバシュ。弟が命を落としたとき、兄は身重だった弟の妻ガウリを引き取り、米国での新しい暮らしに希望を託しました。しかし、ガウリはスバシュと幼子を捨てて別な人生をもとめます。ウダヤンの死が影を落としたそれぞれの人生に待ち受けるものは…
ジュンパ・ラヒリの最高傑作です。後に彼女のキャリアを振り返ったとき、「停電の夜に」と並んで代表作の1つに数えられることは間違いありません。
テーマや技法に関する賛辞はそれこそ枚挙にいとまがないようですが、私が特に感じ入ったのは、冷静に、そして緻密に重ねられた言葉の間からもれ出る熱い感情でした。制御しようとしてなおあふれる熱。作家自身の魂を目の前にしているような気がします。
そして、優れた作品が往々にしてそうであるように、個人的な詳細を積み重ねることで普遍性が生まれているように思います。登場人物の一人ひとりに対して、そこに己の姿を見ないわけにはいきませんでした。人生に於ける共通点が1つもないにもかかわらず、そこに描かれているのは自分だと感じてしまうのです。
アリステア・マクラウドの短編集「アイランド(「灰色の輝ける贈り物」「冬の犬」)」は私の物語だと胸が震えたものです。そして、自分の魂をリアルに映し出すもう1つの作品に出会うことができて、その幸運をかみしめずにはいられません。
JUGEMテーマ:読書