マイン
世界を変革しようと夢見ていた元過激派のメアリーは、20年以上経った現在もリーダーからの招集を待ち続け、新聞編集者のローラは出産を控えながら夫の不倫に苦しんでいる。
メアリーとローラと言っても、あの大草原の姉妹のように仲良しではありません。雑誌に再会を呼びかけるメッセージを読み取ったメアリーは、リーダーに捧げるため、生まれたばかりのローラの子どもを誘拐。そして、米大陸3000キロに渡って文字通り血みどろの逃走/追走劇を繰り広げることになるのです。
自分の大切なもの(マイン)を奪われまいとする2人の情念は鬼気迫る、という言葉をはるかに超え、正に鬼そのものに変貌してしまいます。他人の犠牲など一切お構いなし。ローラとは別にメアリーを付け狙う元FBI捜査官の復讐心など他愛もないものに感じられます。マインを死守するために社会性を放棄する2人の女の姿は、読み手に人間の精神の限界や恐ろしさを突きつけるのです。
この小説が日本で発売されたのは1992年。マキャモンと言えばモダンホラーの旗手としてキング、クーンツに並ぶ人気ぶりでした。
しかし、この物語にホラー要素はなく、人は絶望の淵でどこまで耐えられるのか、そして耐えきれなくなったとき、どのように変貌してしまうのかを描いています。
それまで発表されてきたホラーよりはるかに背筋が寒くなる物語で、マキャモンの新境地に拍手したものでした。
今回読み返して、全く覚えていないことに唖然としましたが(1992年の個人的ベストだったのに)、おかげで大いに楽しむことができました。物忘れがひどくなることも、そう悪いことばかりではないかもしれない。なんか得した気分。
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