Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
<< October 2015 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

舟を編む



この小説はコメディですよね? いやあ、馬締君の真面目ぶりが世間の感覚とずれているため、彼の思考の一つひとつがおかしくておかしくて。夜中に吹き出しては大笑いすることしきりでして、近所に迷惑かけちゃいました。下手な落語よりよほどおもしろい。

辞書は「言葉の海に漕ぎ出すための舟」だという松本先生らの情熱を引き継いだ馬締君。彼の真摯な(常軌を逸した)仕事ぶりは、真っ暗な海で方向を失っていた西岡君や岸辺さんの目には灯台のように映ったことでしょう。ぶれることのない馬締君は元より、彼が放つ明かりに導かれて力強く歩き始めた2人にも「よかったね」と言ってあげたいです。

発刊が押し迫った時期に発覚した校正ミス。50人ものアルバイトが合宿状態で出版社に泊まり込み、1カ月以上にわたって数千ページのゲラを再チェックするわけですが、いやはや、想像するだに恐ろしい。

そして、そのアルバイト代って合計いくらになるんだろう? 収支が合うのか気になって気になって仕方ないのでした。
もっとも、辞書編纂のアルバイトに応じるような学生はあまり時給にこだわらないような気もします。私だって機会に恵まれたら「食事+酒」だけで手伝うだろうな(あ、昔の「本の雑誌」がまさにそうだった)。
 
JUGEMテーマ:読書
小説(あるいは読書) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

カルテット!人生のオペラハウス



広大な敷地と時代を感じさせる荘厳な建物。ここは貴族の館か、はたまた高級ホテルかと思いきや、なんと、引退した有名音楽家専門の老人ホーム。
ところが、あまりの贅沢さに維持費が高くつきすぎ、閉鎖の危機に。施設を継続するためには、毎年恒例のコンサートを成功させるしかないのですが、入居者は一癖もふた癖もある老人ばかり。
さて、今年のコンサートはうまく行くのでしょうか?

元気をもらう映画もたまにはいいですね。その送り手が老人たちというところも、もうじきそうなる自分にとって希望のよりどころです。

コンサートの鍵を握る人物が新たに入居した往年のソプラノ歌手。彼女は衰えた自分の声に我慢がならず、人前で歌うことを拒否しますが、その気持ちは分かる気がします。
でも、もし私が彼女のファンだったら、声が震えても構わないから、1、2曲歌ってほしいと思うだろうな。

ファンというものは、自分の好きなアーティストの元気な姿をいつまでも見たいと思うものなのです。たとえかつての輝きが失せていても構いません。私たちの耳には(萩原健太氏が言うように)ごひいきフィルターが付いています。ちゃんと美しく変換されて聞こえてくるのです。
もし、彼女と同じ理由でステージを拒否する音楽家がいるとしたら、ぜひとも再考をお願いしたいものです。
 
JUGEMテーマ:映画


 
映画 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

パプーシャの黒い瞳



「旅する道は悲しみに満ちている」
パプーシャがそう記したように、ジプシー初の詩人となってしまった彼女の人生は迫害を受け続けてきたジプシーたちの歴史と同様、痛みに満ちたものでした。強制された結婚、子どもを授かれない負い目、そして戦争。

「歴史を書き残せば辛いことばかりを思い出すことになる」として文字を持たなかったジプシーたちにとって、読み書きを覚えたパプーシャの行為は裏切りと映ります。誰からも相手にされなくなった彼女は「詩を書いたことなどない」と自らの才能を否定してまで共同体に残ろうとするのですが…

国から表彰されたパプーシャは国の庇護を受けながら街で余生を過ごすことも可能でした。夫が亡くなり、子どもが去った以上、仲間たちと同じ場所に留まったところで彼女の孤独と貧困は決定的。
少しは楽をしろよ、薄情な奴等は放っておけ、と観客の私は思うのですが、でもパプーシャは頑なです。無視されてまで残りたいと願う彼女の魂が辛いです。



そう、モノクロームの画面がとても美しい映画でした。単色なに色彩の豊かさが感じられる印象的な映像。なんだか、アンセル・アダムスの風景写真が動いているような気分でした。

公式サイトはこちら。
 
JUGEMテーマ:映画
映画 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |