Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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遊女(ゆめ)のあと



時は寛政、日本中が吉宗の発した質素倹約令を強いられる中、名古屋だけは違った。吉宗を快く思わない宗春が遊興を奨励し、とてつもない賑わいを見せていました。

そんな折り、難破した異人との出会いをきっかけに粗暴な夫を捨てて福岡から逃げたこなぎと、夫を裏切った妻を討つために江戸を離れた鉄太郎が名古屋でめぐり逢うことに。それぞれが巨大な力に操られていることも知らずに心を通わせた二人の運命やいかに。

いやあ、おもしろかった。吉宗と宗春の間に確執があり、名古屋だけが賑わっていたなんて全く知らなかった。
江戸以外の地が舞台という点も良かったし、なにより将軍に楯突く宗春という人物が魅力的でした(隆慶一郎ならスーパーヒーローに仕立て上げそう)。

そう、そして、心を通わせることになったこなぎと鉄太郎の関係に意外な結着を用意していた諸田さんの腕前には唸らされ、人の運命の不思議さに想いを馳せることになったのでした。
時代小説の王道ですね。拍手。
 
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モニカ・ベルッチの恋愛マニュアル



4組のカップルにまつわる少々難儀な恋愛模様を描いたオムニバス。楽しくて拍手した「イタリア的、恋愛マニュアル」の続編で(色っぽすぎるモニカ・ベルッチさんが登場するのは最初のエピソードだけ)、イタリア人のイタリア的人生観をこれでもか、というくらい強力に肯定する映画でした。

前作に比べると、いかにも作り事めいたストーリー展開。やっぱり二番煎じはオリジナルを超えられないなあ、とも思いましたが、それでもあれこれ突っ込みを入れながら見ている分には楽しいですね。

主人公たちは、交通事故で半身麻痺の青年、不妊治療の夫婦、ゲイのカップル、父娘ほどに年の差があるレストランマネージャーとウエイトレスなど、それぞれが深刻な状況下にあるものの、全員に共通する「今を楽しまなければ損!」という刹那的な衝動が、彼らの人生を明るいものにしています。

一度きりの人生、楽しまなくちゃね。
 
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朱鳥の陵



春過ぎて夏来たるらし
白妙の衣干したり
天の香久山

夏の到来を予感させるさわやかな歌として習った記憶があり、これまでは、青空と白い衣の鮮やかなコントラストを目の前に浮かべたものです。
しかし、この小説を読み終えた今、もう二度とこの歌を目にしたくないと怯えています。

血縁者同士の血なまぐさい権力闘争が続く飛鳥の宮。持統天皇の妹は不可解な夢に悩まされ、夢解きとして名高い白妙を常陸から呼び寄せることに。そして、夢の真相を解き明かそうとする白妙は図らずも時を遡りながら持統天皇(太上天皇讃良=さらら)の心の内をのぞき見ることとなり、そこに渦巻く嫉妬と恨みに驚愕。持統天皇もやがて誰かが自分の心の中にいると察知し、その捕縛に躍起となる…

やはり坂東眞砂子はとてつもない作家でした。遺作となってしまった「朱鳥の陵」を読んでも、物語の巧さは超一流。女としての嫉み、恨みを軸に飛鳥時代の権力闘争を描くなんて、いかにも坂東さんらしい。背筋が凍えるような恐怖感は初期のホラー作品への回帰も感じさせ、存命だったらますます自在に作品の幅を広げていったに違いありません。

これほどオリジナルで、しかも人の心を震え上がらせる作家は多くありません。今さらながら早すぎる死が惜しまれます。
 
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One Day デイヴィッド・ニコルズ



「小説を読んだ後に映画を見るとおもしろいよ」と知人が送ってくれた物語。

1988年7月15日の聖スウィジンズ・デー、卒業式で初めて言葉を交わしたエマとデクスターは浮かれ気分のままに一夜を過ごすことに。
その日から親友としてつきあい始めることになった2人の7月15日を23年間にわたって追い続けたお話しです。

甘酸っぱい青春小説を想像していて、まあ実際そのとおりなのですが、自己顕示欲とすれ違いがもたらす「やれやれ…」なエピソードが続き、若さ故の苦さばかりが目立ってしまいます。こちらも「君達いい加減にしなさいよね」とお説教気分になったところで、追い打ちをかけるように胸塞がるハプニングが2人の関係に影を落としてしまうのでした。

これで終わり? となんだかやるせない気分でページをめくっていくと、最終章で2人が初めて出会った日の翌日、7月16日の後日譚が付け加えられていました。
そこには2人が気の置けない友達同士となるエピソードが描かれており、これから人生を生き始める人たちが持つあの独特な幸福感に満ちていたのでした。2人の気持ちは素晴らしい人に出会った幸運、無限に広がるキャリアへの可能性に浮き立っています。

最後にこのエピソードを配したことで、苦々しかった印象は180度転換、希望の物語へと変貌したのでした。

映画「ワン・デイ 23年のラブストーリー」は、各エピソードがコンパクトに楽しくまとまっています。デクスターの底の浅い感じがナイスでした。
 
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