Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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シェリ



元高級娼婦にして富豪のレアとプリー、そしてプリーの息子でレアの愛人となるシェリ。彼らが尊ぶ価値観は粋。野暮ほど忌み嫌うものはありません。

己の姿を客観的に見つめるレアは衰える肉体を粋ではないと見なし、また、そんな自分からいつまでも離れようとしないシェリを野暮だと断じます。
年若く美しい妻を置き去りにしてシェリが戻って来たとき、レアは喜びに打ち震えますが、そんなお互いの姿は無粋そのもの。だからレアはシェリの心が離れるように仕向けたのでしょう。

年若く美貌のシェリはまだまだ輝くのだろうけれど、老いを自覚したレアが保ち続けるのは誇りだけ。これまで懸命に美しさを保ち続けてきた自分が、今さら年齢にふさわしい年寄りを愛人に持つなど言語道断なのです。

そう、主役は老いていく自分と向き合い、誇りを持って孤独に生きる決心をしたレア。
哀しい結末でしたが、透明感溢れる美しい絵画を見ているような心持ちになりました。

年上の女性にあこがれる男達を描いた物語が好きな方には、伊藤整「変容」、ジョン・アーヴィング「未亡人の一年」、グレン・サヴァン「僕の美しい人だから」などもお勧めです。

ところで、実際に25歳年上の女性と恋愛関係を持てるでしょうか?
50歳をとうに過ぎた我が身に置き換えて想像するのは結構難しいものがありますが、もし自分が18歳で相手が43歳だったらどうだろう? 美しく着飾り、教養に溢れ、気っぷのいい女性だったらあり得る気がします。
 
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東ベルリンから来た女



冷戦時代の東ドイツ。将来を嘱望されていた医師のバルバラは恋人のいる西への移住申請を行ったため、辺地の小児科病院へ左遷されることに。そこで出合ったのは献身的に患者に接する医師のアンドレ。
アンドレはやがてバルバラに好意を抱き始めますが、彼女の希望は恋人の手引きで亡命すること。医師としての倫理観に満ちた仕事をこなしながらも、心は実現の日だけを待ち望んでいました。

いよいよ決行が迫ったその日、過酷な矯正作業所に耐えられなくなった元患者の少女がバルバラの元に救いを求めて逃げ込んできます。
そのまま自由を求めて亡命するのか、放置すれば過酷な処置が決定的な少女を救うべきなのか。バルバラの下した決断は……

弱者を守ろうとする心の動きは人として自然なものでしょう。一方で人は自己保存の本能も備えています。バルバラの心はどのように揺れたのでしょう?
たとえ東に残ったとしても、彼女には好意を寄せてくれるアンドレという存在があった。少女の登場が亡命決行直前であったため、反射的に(あるいは衝動的に)あの決断を下したとも想像できますが、自由を放棄してもアンドレを得られるという冷静な目論見が働いたかもしれません。

最後の場面で見せるバルバラの表情は見るものにさまざまな想像を求める素晴らしいものでした。

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The Third Angel アリス・ホフマン



3つの時代を舞台にした3つの「間違った愛」の物語。それぞれの行方は人生の辛さを感じさせるものですが、2つの家族の歴史を縦軸として貫いたところにおもしろさがありました。
実際、第1部だけではいつもと変わりばえがしない、などと不遜な感想を抱いていたのですが、第2部に入ってつながりが見えてきたところで、ページをめくる手が止まらなくなりました。

第1部に登場する新郎新婦2人の母親の過去が第2部と第3部へ引き継がれ、その舞台はすべて幽霊が出るロンドンのライオンパーク・ホテル。
幽霊が引き合わせた出会いとヒット曲の誕生、幽霊を出現させることになってしまった少女の苦悩など、その後のたくみなストーリー展開はさすがなのでした。
意表を突いた幽霊の正体には慄然としましたが、置かれた状況下で精一杯生きようとする登場人物たちに素直に共感できる物語です。

ジョン・レノンとおぼしき少年が登場するおまけも良かった。


以下、ネタバレのあらすじ。
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ナニカアル


日本軍の支配下にある南方の取材を命じられた林芙美子。
彼女の目的は自分の実力を文壇に示すこと、そして統制の厳しい内地では叶わない恋人、謙太郎との再会。
しかしその逢瀬は軍が画策したもの。二人の行く手に待つものは……

林芙美子という作家のぎらぎらした生命力が圧倒的な力作でした。こりゃすごい。

ところで、夫の緑敏さんはどんな気持ちを抱いて芙美子と暮らしていたのだろう。それがとても気になります。
売れない画家である自分に対して妻は戦前、戦中、戦後を通して売れっ子の超有名作家。しかも新聞記者の愛人であり、人目をはばからない行動は彼の耳にも届いていたのですから。

芙美子の作家活動を支援するため、黒子に徹してマネージメントを買って出たものの、浮気まで認めたわけではなかったはず……
と、私は想像していました。でも、緑敏さんの胸の内はやはりわかりません。というのも、芙美子とその母が亡くなった後、林家の家事を手伝っていた芙美子の姪を妻に迎えるのですが、その理由が「林家の身内で芙美子の遺産を守りたい」ということだったのです。

妻が生きた証しを他人には任せたくない。どのような振る舞いをされようとも、緑敏さんは芙美子に心を奪われたままだったのかもしれません。
傍から見ると茨の人生のようでありますが、緑敏さんの心にもナニカアル。

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