Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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ロング・グッドバイ



学生の頃に清水訳でチャンドラーに夢中だった私の頭の中では、いつもハンフリー・ボガード演じるマーロウがモノクロ画面の侘しい街角を皮肉な表情で歩いていました。そんなわけで、あっけらかんと明るい70年代ロサンゼルスの街と、時代に馴染めない昼行灯のような若きマーロウ像に意表を突かれた感じです。

でも、これはこれで悪くないですね。猫にえさを催促され、朝の3時にぶつぶつ言いながら買い物に出かける姿はそれまでのヒーロー像とは別物(メキシコではミスター・カッツと呼ばれる始末)。「ぴかぴかの気障」ではないのです。これがリアルというものですよね。

そして登場人物が変な人たちばかり。お隣は半裸のお姉ちゃんたちがヨガに夢中で、しかもマーロウ宅の騒ぎにも無関心。乱入する成金やくざは自分の純真を証明するために全員で全裸になろうと部下やマーロウに強要するし(シュワルツネッガー嬉しそう)、高級住宅街の入り口にいる警備員は物真似大好き。

70年代に育った私としては、当時の西海岸の風物を見るのも楽しい。既に24時間営業のスーパーマーケットがあり、バーではステーキが85セントですよ。ご婦人方が持つテニスラケットはウィルソンのスチール製だった。ジミー・コナーズが振り回していたなあ。

そしてなんと言っても音楽が格好いい。流れるジャズはまさにクールでした。
でも、マーロウ君、友だちに裏切られたからといって、そこまでやりますか? ラストシーンだけはクールじゃなかったなあ。
 
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だれの息子でもない



各家庭に携帯用対空ミサイルが配備され、ネット内に人格をバックアップすることが当たり前の近未来。安曇平市職員としてミサイル不正使用予防とオリジナルが存在しなくなったネット内アバターの消去に従事する「ぼく」のミサイル情報が誰かに書き換えられてしまった。
原因調査に乗り出したぼくは、存在するはずのない父親のアバターに遭遇し、自らミサイルを使用してしまうことに……

論理的思考が得意ではない私がこの小説を十分に理解できたかどうかは疑問ですが、堪能できたことは間違いなしです。
意識の存在に関する多様な議論の提示は、本作でも健在。現代的な背景を加え、その考察はさらに鋭さを増しています。

「我思う故に我あり」。自己を意識して初めてヒトは存在するわけですが、そもそも意識はどのように発生することになったのか。ヒト以外の生物、あるいは鉱物にも意識は発生するのか、ユニークな論を展開していきます。
そして、ネット空間を使用するのはヒトだけではないという可能性の示唆も「野生コンピュータ」を考え出した神林さんならでは。

そして、これら哲学的考察をトリオ漫才で進行させるあたりもさすがです。難しいだけでは途中で放り投げていたかも。

いやはや、いつまでも刺激的な作家です。
 
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100歳の華麗なる冒険



爆弾マニアのアランは思うままに行動できない老人ホームにいらいら。100歳の誕生日を迎えたその日、ついに窓から脱走。切符を買おうと訪れた駅で図らずも大金を預かってしまい、持ち逃げを決め込んだことでギャングと警察に追われることに。
さあ、華麗な冒険の幕開けです!

このじいちゃん、単なる爆弾マニアではありません。独学ながら、その知識は専門家はだし。フランコ将軍に命の恩人だと勘違いされたことを振り出しに、トルーマン副大統領、スターリン、レーガン、ゴルバチョフと知り合い、原爆作りに関わるわ、二重スパイを演じるわと波瀾万丈の人生(「フォレスト・ガンプ」を思い出します)。100歳を迎えたからって、行動力は少しも衰えないのです。

でも、好感が持てるのは、やる気満々じゃないということ。
爆弾が好きだという気持ちの赴くままに漂白し、なんだか分からないうちにすごいことになっているだけなんですね。
もう、ひたすら受け身。だって「明日は何が起きるか分からない。あれこれ考えるだけ時間の無駄」なんです。

そう、明日は明日の風が吹くのです。アランを見倣って(今まで以上に)気楽に生きようと決心する新年なのでした。

象の尻に敷かれて死ぬのだけは嫌だ、と思いました。
公式サイトはこちら
 

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おしゃれ泥棒



ボネは美術専門家の目をも欺く凄腕の贋作作家。調子に乗って自分で作った「チェリーニのビーナス像」を美術館に貸し出すことにしたものの、保険をかけるために科学分析調査を行うことに。そうなっては一大事、娘のニコルは泥棒だと思い込んでいた美術鑑定家のデルモットにビーナス像を盗むよう依頼して……

30代後半でもオードリー・ヘプバーンは可愛らしい。さばけた雰囲気も加わって一層チャーミングです。出演者の中では一人だけマスカラが目立って濃いのだけれど、全く問題なし。寝間着姿にゴム長靴という格好さえ様になっています。使用されている美術セットがいかにもまがい物風なので、彼女の美しさが際立っていました。
いくらなんでもそれは無理でしょう、という設定もコメディならではの楽しさでした。

以下、本筋とはまったく関係のないお話。
贋作家ボネは、いつかばれると心配するニコルに対して「メーヘレンだってフェルメールの贋作で世間を欺いた。おれの腕前だって負けてはいない」旨の発言をします。
フェルメールの贋作事件は、やはり相当世間を賑わしていたのですね。



オードリーの運転する赤いオープンカーが可愛らしい。調べたら65年型のビアンキだそうで、あんなの欲しいと思いました。
クリーム色のジャガーも格好良かったけれど、あれは高嶺の花ですなあ。
 
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