ロング・グッドバイ
学生の頃に清水訳でチャンドラーに夢中だった私の頭の中では、いつもハンフリー・ボガード演じるマーロウがモノクロ画面の侘しい街角を皮肉な表情で歩いていました。そんなわけで、あっけらかんと明るい70年代ロサンゼルスの街と、時代に馴染めない昼行灯のような若きマーロウ像に意表を突かれた感じです。
でも、これはこれで悪くないですね。猫にえさを催促され、朝の3時にぶつぶつ言いながら買い物に出かける姿はそれまでのヒーロー像とは別物(メキシコではミスター・カッツと呼ばれる始末)。「ぴかぴかの気障」ではないのです。これがリアルというものですよね。
そして登場人物が変な人たちばかり。お隣は半裸のお姉ちゃんたちがヨガに夢中で、しかもマーロウ宅の騒ぎにも無関心。乱入する成金やくざは自分の純真を証明するために全員で全裸になろうと部下やマーロウに強要するし(シュワルツネッガー嬉しそう)、高級住宅街の入り口にいる警備員は物真似大好き。
70年代に育った私としては、当時の西海岸の風物を見るのも楽しい。既に24時間営業のスーパーマーケットがあり、バーではステーキが85セントですよ。ご婦人方が持つテニスラケットはウィルソンのスチール製だった。ジミー・コナーズが振り回していたなあ。
そしてなんと言っても音楽が格好いい。流れるジャズはまさにクールでした。
でも、マーロウ君、友だちに裏切られたからといって、そこまでやりますか? ラストシーンだけはクールじゃなかったなあ。
JUGEMテーマ:映画