Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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狼少女たちの聖ルーシー寮



父親が消えたワニ園でワニと格闘する少女。魚の幽霊が見えるゴーグルをつけて行方不明の妹を捜す兄弟。ミノタウロスの父親が曳く牛車に乗って西部を目指す一家。狼人間に育てられた子どもたちの社会順化を目指す聖ルーシー寮。

ここに収められた短編に登場するのは実に奇妙な世界。どのページをめくっても、まか不思議なことが起きています。
でも、登場する子どもたちが感じる思いの数々はなじみ深いものばかりです。世界は不可解であり、どうすることもできない制約に満ち、不安ばかりがつのります。

子ども時代が純粋無垢で楽しみにあふれていたなんて、嘘っぱちもいいところ。そして、大人になればなったで別な不自由さに直面し、新たな不安感につきまとわれ続けます。
この短編世界に浸っていると、努力が必ずしも報われるものではないという事実を呆然と見送る一方で、仕方ないよね、と肩を寄せ合う気分になります。

牢獄に閉じ込められていたような気分は二度とご免だと思っていたのに、やっぱり逃れられないんだなあ。
 
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めぐり逢わせのお弁当



家庭を顧みない夫の心を取り戻したいイラ。妻に先立たれた喪失感から抜け出せない定年間近のサージャン。お弁当の誤配が2人を引き合わせ、相手を知らぬまま手紙を通したささやかな交流が始まります。寂しさを抱えるイラとサージャンは果たしてめぐり逢うことができるのか……

とても評判が良く、いろんな映画サイトなどで紹介されているので、詳しくはそちらを。

他人事じゃない侘しさが身につまされたのは、老いに気付いたサージャンの怯えです。街のレストランで待ち合わせることになった朝、洗面台で髭をあたっていると、それまで感じなかった自分の老人臭に気付いてしまうのです。
自分と比べてみれば、イラはまだ夢見る年頃。釣り合うわけもないし、悪くすればがっかりされてしまうかもしれません。夢のような逃避行に心躍らせた己を恥じ、気弱になったサージャンの選んだ行動がなんとも切なかった。

そして、新たな道を切り開くことにしたイラの決意。これは意外でした。待ち合わせを提案したのも彼女だし、サージャンの職場を突き止めて乗り込む行動力は「なぜそこまで?」と思わせるものがあります。すれ違いが続いても「正しい場所にたどりつける」と信じ、大きな決断を下す姿を見ていると、それほどまでに寂しさを感じ、心が通い合う相手を求めていたのかと驚かされてしまいます。

邦題通りめぐり逢うことができるのか、それともすれ違うのか。物語の結末は観客に委ねられます。

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愛ノ旅 荒木経惟展



「たしか、このあたりにあったと思うんだよなー」大音声で誰かがずかずかと近づく音が聞こえたかと思うと、壁の向こうから現れたのはアラーキーその人だった!
突然のことに声をかけることもできず、呆然と見送ってしまった場所は新潟市美術館の「荒木経惟 往生写集−愛ノ旅」展会場内でした。
心臓がばくばくしてしまった。

さて、気を取り直して展示写真を見て改めて思ったのは「この人の写真、好きだ」ということです。若い頃は荒木さんの撮る他人の私生活が非常に生々しく感じられ、生理的嫌悪感を覚えていたものですが、歳を重ねるごとにだんだん良くなってきた。

実は、自身の新婚旅行を記録した「センチメンタルな旅」と奥さんの臨終を看取った「冬の旅」は特に苦手な写真でした(陽子さんに表情がない、おどろおどろしい)。でも、今回、並べられた順番に移動しながら見ていくと、行間から登場人物の声が聞こえる巧みな小説を読んでいるようであり、いつの間にか胸が熱くなってしまうのでした。人物写真の合間に挟まれた空、病院の階段、雪に戸惑う愛猫チロの姿が荒木さんの思いを一層強く語っているようでした。

この人の写真は1点だけ独立して見ては良さが分からない。こうやって物理的に移動しながら数を見ていくと見る者の心にさまざまな思いが湧き上がってくるようです。

この後に行われた辻惟雄さんとの対談にも足を運びましたが(入場者は250人!)、こちらは主催者側の思惑通りにことが運ばず、ちょいと残念でした。
それでも、「女性にはわざとつまらなそうな顔をしてもらって撮るんだ」とか、「写真は被写体との共同作業。創作なんかじゃない」といった話の数々は興味深かった。

今後も驚かせてくださいね、荒木さん。早く血尿が止まりますように!

展覧会の詳細はこちら。10月5日まで。
 
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ファウスト



楽しめたかと問われれば首を横に振らざるを得ないし、では、つまらなかったかと訊かれても、うーんと唸っちゃうのです。
全体を通して薄暗く抑圧された雰囲気が漂い、苦痛なシーンが連続することもあるのだけれど、はっとするような映像が現れることもあり、なかなか一筋縄ではいかない映画です。

物語は、ゲーテのファウストが下敷き。
世の中のあらゆる学問を修め尽くしたファウスト博士。ところが魂のありかが分からず、探求の日々(人体解剖シーンはかなり気持ち悪い)。そして生きることに空しさを覚えた矢先、悪魔ではないかと評判の高利貸しにこの世の悦楽を案内してもらうことに。

そうこうするうち、酒場で成り行きから将校を刺し殺したうえ、葬式で目に留めた14歳の妹に劣情を抱く。何が何でも思いを遂げたいファウストは、娘を手に入れる代価として高利貸しに魂を売り渡してしまうのです。
そして悪魔さえも打ち殺してしまい、無の荒野へ笑いながら消えていく……

比率が1対1に近い画面なんて初めて見ました。しかも終盤は横長に変化するし。その変則画面がさらにゆがんだり、色彩が消えたりと、通常の映画では考えられない映像が次々に現れます。

きっと、物語を通じて何かを伝えるというより、映画表現の可能性を模索するような作品なのでしょう。私には、中年のおっさんが少女趣味に走って破滅した哀れなお話にしか思えなかったけれど、挑戦的な作風にはやはりどこか惹かれてしまうものです。
でも、2度は見ないだろうな。
 
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