ひそやかな復讐
大絶賛されたデビュー作から約20年、ようやく発表されたドナ・タートの3作目が英米で大評判という噂を聞き、遅まきながら過去の作品を読みたくなった次第。
残念ながら、日本では2作とも絶版状態で、入手可能なのは古本のみでした。
アメリカ南部の裕福な家庭。一家のアイドル的存在だったロビンが殺害され、12年経った後も家族はそのショックから立ち直ることができません。当時幼かったハリエットは兄殺しの犯人を突き止めようと決意しますが……
邦題から連想して、犯人捜しのミステリーだと思って読むと肩すかし。しかしながら、この長大な物語が問いかける問題の種類は多岐にわたり、非常に読み応えのある小説に仕上がっています。長い休暇にはうってつけ。
登場する一人ひとりについて語りたいことが生じるほど、タートはとんでもなく緻密に人物を描いています。その中で、私がもっとも同情したのは、ハリエットに犯人と疑われたダニーでした。
確かに彼は町のごろつきで、ろくでもないことばかりに手を染めていますが、この小説の中では最も抑圧された人生を送っています。
貧しい家庭環境、暴力的な長兄、常軌を逸した伝道師の次男、そして知的障害を持つ弟にはさまれ、しかも同居する祖母は大の長兄びいき。
長兄のドラッグ作りを手伝わされているものの、収入の手段はなく、常に精神的に怯えている。眠ることさえ許されず、ついに兄殺害を計画したダニーを一方的に責めることは難しい。
執拗につきまとうハリエットを振り払うため、あやうく溺死しそうになったダニー。一命を取り留めたものの、彼が再生する可能性は低いように思えます。
彼が薄闇の人生を歩き続けるのかもしれないと思うと、暗澹たる気持ちになるのでした。