髪結いの亭主
いわゆる大作でもなく、感動に涙を流すわけでもない。けれども、愛してしまう作品というものはあるもので、私にはこの「髪結いの亭主」がそのひとつです。
もう何度も観ているけれど、すべてのシーンが愛おしい。
最初から通して観てもいいし、無作為に選んだシーンを数分観ているだけでもいい。
たまたま通りかかった理髪店で客待ちをするマチルダに一目惚れしたアントワーヌ。店に入って散髪をしてもらうや、すぐに求婚。
そして幸せな結婚生活が始まるのですが、なにしろ、世界は自分たち二人だけで完結するという惚れっぷりが素晴らしい。
あなたがいるから世界がある。あなたがいなければ世界は終わる。
一日中店の中で互いに見つめ合う二人は、とにかく飽きるということがありません。愛する人を見つけた喜びにただただ浸りきる様子は微笑ましく、また、羨望を感じるほど。
あまりに充たされているとき、人はそれが失われることに怯えてしまうものなのですね。
そう思うと少しくらいは不満の種があった方がいいのかな、とも思いますが。
アントワーヌは子どもの頃から近所の理髪店を経営する女性にあこがれ、髪結いの亭主になりたいと宣言していました。父親はびっくりするのですが、後に教える人生訓がよかった。
望みというものは強く願えば叶うもの。叶わないのは願い方が足りないから。
確かに、頷けるところがあります。人生の秘密は意外にシンプルなものなのです。
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