密林の語り部
異質な文明が出会ったとき、何が起きるか?
まず間違いなく、経済的優位に立つ方がそうではない方を呑み込もうとしますよね。
「貧しさから掬い上げてあげる」といった善意に基づく場合もあるでしょうが、結果的には呑み込まれた文明の労働を搾取し、さまざまな格差や差別を生み出すことは、歴史の教科書を確認するまでもありません。
ペルーの大学で文化人類学を専攻するサウル君。彼もフィールドワークで未開の文明に出会うことになります。
アマゾンの原生林を移動し続けるマチゲンガ族の生き方に共感し、西欧文明との接触が彼らの文化を損なうとして政府の政策を批判。
作家を志す友人の「私」は「そこまでむきにならなくても…」と少々あきれ気味なのですが、やがてサウルは謎の失踪。
サウルが去ってから25年後のフィレンツェで私は偶然にもマチゲンガ族の写真を目にします。大勢の人々が取り囲んでいるのは私を魅了しながらも、その存在が明らかにされなかった「語り部」に違いありません。そして、その語り部の面影は、サウルに似ている…
なんと彼は西欧文明の構成員の1人としてマチゲンガ族を守ろうとするのではなく、約束された未来を捨て、警戒心の強い部族の中に身を投じていたのです。しかも、放浪する部族のとりまとめ役である語り部になってしまった。
そこまで思い詰めるって、いったい彼の心にはどんな思いが去来していたのでしょう。
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