黒い犬
気がつけば毎年マキューアンを読んでいます。
どこか気になる作家なのです。物語の楽しさというより、考えるとはどういう行為なのかということを教えてくれる。
先の大戦中、政府関連機関の仕事で出合ったジューンとバーナードは一目で惹かれ合います。戦後は共産主義に共感し、共に入党。同志として、愛情あふれる夫婦として世界の改革を目指そうとした2人だったのですが、新婚旅行中の出来事がきっかけとなり、その後終生変わらぬ別居を選ぶことに。
娘婿のジェレミーは夫妻が互いに愛情を失っていないにもかかわらず、なぜ離ればなれなのか疑問を感じます。やがて命が尽きようとするジューンの回想録を書き上げるためと称して2人から話を聞き出し、別居の背後に黒い犬の存在を発見するのですが…
結論から言えば、二人の別居は相容れない思想の相違。あまりに違う土俵を選んだ2人の間には議論さえ行う余地はありません。
でもねえ、相違を受け入れられない思想ってなんだろうと思うのです。
世の中の思想、宗教といったものの多くは違う意見を排斥しようとしますよね。
寛容を説く思想でさえ、自らを絶対なものにしようとする。
人という生き物は誰かと共感できなければ生きていけないくせに、なぜ対立を好むのだろう。
世界を改善したいという共感を抱いていたジューンとバーナードだって、どこかに着地点を見つけられたはずなのに…
という具合に、(とりとめがないものの)今回もまたいろいろ考えてしまうことになったのでした。
答えが出るわけではないけれど、普段ぼんやりと暮らしている私にとって、マキューアンはなかなか刺激的なのです。