暴力の教義
血は水よりも濃いのか?
犯罪者であり、母と自分を捨てた父と偶然に再会したルルド。米国捜査局の捜査官を務めるようになったルルドは「ありふれた殺人者」を自称するローボーンが実父であるとすぐに気づくものの、革命前夜のメキシコで武器密輸捜査を行うため、その事実を伏せて現地の実情に詳しい父と二人で危険な旅に向かいます。
ローボーンに捨てられて命を失った母親を慕うルルドにとって、彼は憎むべき対象です。
しかし、緊迫した状況下では手を携えなければならず、やがてルルドは自分の中に父親と同じものを発見してしまいます。
憎むべき存在と自分が同じであると気づいたとき、ルルドが受けたであろう衝撃を説明を省いた抑えられた文体の向こうに感じるのは、なかなか難しい。
あまりに自分の日常と違いすぎて想像すらできないというのが正直なところ。
さらに子どものいない私にとっては、許しを請わずにはいられなくなったローボーンの心中の嵐も想像しがたい。
でも、そのような葛藤は普遍的なものだし、背景となっている暴力的な世界は今も変わらず。
理解が難しいからといって本を置くことはできませんでした。
そして読後には、想像が困難であったにもかかわらず、私の心に痛みが刻みつけられていたのです。
そう、それが受け入れがたいものであっても血は水よりも濃いのです。
有無をいわさずある種の真実を強引に突きつけるテランの力業には恐れ入りました。
二人が何のために危険な旅をしているのか、それを理解するためにメキシコ革命の概要を眺めておくことをお勧めします。