Un gato lo vio −猫は見た

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フル・モンティ



手早く稼ぎたい失業中の男たち。おれたちに何ができる? そうだ、ストリップだ、どうせやるならスッポンポン(フル・モンティ)だ!

というわけで、400人の観客を前に踊るラストシーンは拍手、拍手。
でも、ここに至るまでのお話は、コメディとしてはあまりおもしろくありません。
それより、人が日々の生活を送るってこうだよなあ、という現実感が切なくて、切なくて。

イギリスの鉄鋼の町という舞台がそもそも寒そうで寂しそうだし(「ブラス」もそうだった)、いわゆる美男美女や、セクシーな体つきの俳優も登場しません。
ジャージやよれよれのシャツやトレーナーが妙に似合いすぎて、とても映画を観ているような気分になれないのです。まるで、知り合いが登場するビデオを見せられているような…

舞台や状況があまりにリアルすぎるのも良くないな、と思う一方、失業中の男たちとその家族の間で交わされる感情のやりとりのリアルさは、なにか心に触れるところがあります。
それは非常にありきたりで、本当なら映画にも小説にも取り上げにくいささやかなものです。
でも、生きていくのはこういうささやかな感情の交換の連続だよなあ、としみじみとさせてくれます。

そんなわけで、祝祭的ラストシーンでは、よく投げ出さなかったなとリアルに感心し(少しうるっとしながら)思わず拍手を送ってしまったのでした。
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Harrow & the Harvest ギリアン・ウェルチ



ブルーグラスやフォークの味わいを感じさせるアコースティックなアルバムで、11年発売の新作ながら、数十年前の音楽を聴いているような不思議な懐かしさが漂っています。
彼女は「お気に入りのレコードを眺めていたら、全部ナッシュビルで録音されたものだった」ことに気づいて、それならとこの音楽の街に移ったそうです。
懐かしさの要因の1つなのかもしれません。

楽曲はじつに淡々としています。でも穏やかだけれどソウルに満ちた歌声が聴く者の心を静かに揺さぶります。決して大波は立たないけれど、波紋が消えることはありません。
毎日同じメニューながら、愛情のこもった家庭料理に似て滋味に溢れている、という言い方もできるかもしれません。

私は何度も繰り返しこのアルバムを聴き、辛酸をなめ尽くしながらも、なんとか人生の後半にたどり着いた人々のことを客観的に見つめる視線を感じました(歌詞はうまく聴き取れないので、楽曲だけの印象です)。
人生とはこんなもの。助けてあげることはできないけれど、でも分かっているよ、と。

ところが同じアルバムを聴いた知人は、「暖かさに満ちていて幸せな気分になる、日が傾き、もうすぐ夕食ができあがるときの期待感に似ている」という感想。
なるほど、そう言われてみればそんな風にも聞こえます。

ともあれ、このアルバムは、家庭料理と同じように飽きることなく何度も繰り返し聴くことになりそうです。
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