山妣
今年の冬は寒いと思いつつ、いっそのこともっと寒くなってやれとこの小説を手に取りました。
舞台は雪に閉ざされる新潟県中越の山奥とおぼしき村。
ここには山妣が住むと言われ、村の人々に怖れられています。そんな村で苦しい生活を送る小作農の楽しみは年に一度の村芝居。
稽古をつけるために雇われた浅草の興行主扇水と役者涼之助の登場で物語が始まります。
坂東さんの転換点ともなった直木賞受賞作なので、そのおもしろさは折り紙付きですが、今回15年振りに読んで感じたのは、この物語そのものが持つダイナミズムでした。
地主の若旦那夫婦、山妣、涼之助が顔を揃える終盤から物語は一気に加速。予想もつかないような展開でぐいぐい進んでいきます。
もはや作者の手を離れ、物語が自分の力で動き出したような圧倒的な力を感じます。「山妣」というこの物語は先に進みたがっている。
悲劇の結末に向かってばく進する物語の力を制御することは不可能で、次々に起きる哀しい出来事を呆然としながら見送るしかありません。
この推進力はどこから来るのだろう。
それから、もうひとつ呆然としたことが。