卵をめぐる祖父の戦争
第二次世界大戦下、ドイツ軍に包囲されたピーテル(レニングラード)を体験できることもすばらしい。
運命の巡り合わせが引き合わせた二人の少年の奇妙な友情もすばらしい(「熊を放つ」のグラフとジギーをを思い出す)。
残暑の新潟で私は寒さに凍え、飢えに苦しみながら雪のレニングラード郊外をさまよいました。
物語を読む至福の時。
粛正された詩人を父親に持つレフは貧相で短気でふさぎやすいユダヤ人。コーリャは金髪碧眼、がっちりした体格の自慢屋。
ウエディングケーキに必要な卵を1ダース探してこいと命じられた2人の悪戦苦闘がこの物語のメインストーリーですが、それだけではちょっと良くできた小説という域を出なかったでしょう。
でも、終盤に訪れるひとつの悲劇がこの物語を忘れがたい作品に高めました。
それはあっけなくも冷酷な事実の中でみせるコーリャの明るい魂のありようです。
未読の人の楽しみを奪いたくないので詳細は避けますが、間近に迫った死におびえることなく、最後まで誰か他の人のために尽くす姿に鼻の奥がつんとします。
私はコーリャの笑顔をいつまでも覚えているでしょう。