湿原
1969年、学生運動の終焉を予感させたこの年、主人公雪森厚雄と池端和香子は新幹線爆破事件の犯人として誤認逮捕され、それから9年の月日を刑務所で苦悩のうちに過ごすことになります。
冤罪を晴らすために検察側に立ち向かう人たちの物語が縦軸ですが、関係者の人生がそれぞれ織り込まれ、さらに人間というものの本質や社会の在り方にまで加賀さんの関心は及び、非常に読み応えがありました。
中でも雪森が獄中で記した「告白」はそれだけでも1冊の小説になり得る内容で、私にとってはこれこそがこの小説の要に感じられます。
雪森は新幹線爆破に全く関わっていないのですが、それとは別に彼は幼い頃から犯罪癖がありました。まとまった現金を目にすると後先考えず盗んでしまい、更生と過ちをひたすら繰り返す。実に人生の半分を刑務所で過ごしてきたのです
戦争中は中国で命じられるまま多くの敵兵、民間人も殺害します。それらがすべて重くのしかかる雪森は、自分は許されるに値しない人間だ、この件では無実だが死んでもかまわないという心の湿原に足を取られてしまうのです。
和香子の愛情を以てしてもそこから足を踏み出せない雪森。
果たして彼は再び生きる力を得ることができるのでしょうか……