Un gato lo vio −猫は見た

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ライブの幸せ2 ロンドン交響楽団

london.jpg

バイオリンがピアニシシモを奏でたその瞬間、私は粉雪の舞うフィンランドにいました。
針葉樹の開けた林を灰色の空が覆い、やがて風が募ってきそうな気配です。

これはシベリウスのバイオリン協奏曲第1楽章の冒頭。
演奏したのはゲルギエフ率いるロンドン交響楽団でした。

なんという美しいピアニシモだったことでしょう。
かすかな音量にもかかわらず確かな存在感を持ち、耳をそばだてるまでもなく聴くものの胸にまっすぐ届いてきます。

そしてオーケストラ全体の暖かさ。
CDで聴くロンドンとは全く印象が異なりました。
やわらかで威圧的なところは微塵も感じさせないのに、圧倒的な厚みを持ってこちらに迫り来るのです。
気づけばぬくもりのある音の海にたゆたっているのでした。

バスが実に豊かにオーケストラを支えていましたが、きっとそのせいなのかもしれません
(私のオーディオ装置ではこれほど存在感に満ちたバスを再生できないのです)。

マーラーの1番もすばらしかった。
ゆったり目の第1楽章が怒濤のフィナーレを際だたせてくれました。

大好きな曲、大好きな指揮者、尊敬するオーケストラ。
なんという幸せ。
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変なイルカの「ポンペイ展」



小春日和の穏やかな日差しに誘われて、県立近代美術館のポンペイ展に出かけてきました。
休日ということと、併設が亀倉雄策展ということもあって、なかなかの賑わい振りでした。

最初の展示物が奴隷の足枷、というところに、今回の展覧会の意図を感じます。
2000年前、既に華やかさを誇っていたイタリア文化の影の部分を知らずして、ポンペイの遺物を見ることはできない、ということでしょう。

興味深いものはいろいろありましたが、なんだこりゃ? な部分も。

いちばんおかしいのはイルカ。
あれだけ精密にさまざまな生き物や人間を描写しているのに、イルカだけがぞんざいな扱い。
彫刻にしても絵画にしても、およそイルカには見えないのです。

子どもの落書きかこれ?
ほとんどが変な顔に長い細い胴体。
特にモザイク画はその最たるもので、キュレーターもいじりたくなってしまったのか、これをモデルにした塗り絵コーナーまで設けられていました。
古代イタリア人はイルカが嫌いだったのかな?

りりしく筋骨たくましい男性彫刻がたくさん展示されていましたが、例外なく脇腹の肉がぽよんと飛び出していることに安堵のため息なのでした。

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長きこの夜



自分の来し方を振り返ると、この先も人間的な成長はあり得ないし、悟りの境地に達することはないと簡単に想像できるのですが、でも例えば70代、80代でどんなことを思いながら日々を過ごすのだろう?

この短編集に収められた連作の「赤い珠」と「おにんどん」は、70歳を目前にした人たちの心の内をリアルすぎるほどに明かしてくれます。
老いに逆らおうとする「ごみ友達」4人のあがきっぷりが、おかしいやら、せつないやら。

男として枯れていくことには、やっぱり不安を感じるのですね。
風俗店に初めて足を運んで、孫のような女性に手を合わせてみたり、料理教室の若い未亡人(50歳です)先生にのぼせ上がってみたり。

そのどたばたぶりは、この先自分がきっと体験するものなのだろうな、と思われ、それ故、実に複雑な気持ちにさせられます。

この世とあの世が怪しく交錯するその他の短編も、不思議な読後感を残します。そうそう、内田百蠅鮖廚錣擦襪茲Δ福帖

ああ、私もこのように老いていくのだろうな。
でも、こんな感じなら悪くないな。

佐江さんの他の作品も、俄然、気になり始めました。

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骸骨ビルの庭


「骸骨ビル」は、かつて持ち主と大勢の戦争孤児たちが親子として暮らした建物。子ども達は皆独り立ちしてビルを出て行ったのですが、建物が売却されると決まったことをきっかけに、数名が戻って来ます。

47歳で大手電機メーカーを退職したヤギショウ君。
開発会社に頼まれてそんな人たちを立ち退かせる役を引き受け、単身大阪の骸骨ビルで暮らし始めるのですが、ひとクセ、ふたクセある住民は果たして出て行ってくれるのか、彼らが戻って来た意図は何なのか……

宮本輝の代表作にはならないだろうけれど、久しぶりに肩の力が抜けた感じで、どこか懐かしい雰囲気が漂っています。個人的には当たりでした。

ヤギショウ君は表向き争いは望まず、けっこう日和見なのですが、人間としての基本はしっかりとしています。
「椎名燎平が中年になったら、こんな感じかな」
なんて思ったら、そうだ、この物語そのものが「青が散る」中年版じゃないですか。

傷を抱えた登場人物それぞれが、生き延びようとする命の美しさ、人事を尽くして天命を待つ潔さ、にも関わらず襲いかかる悲運。

ヤギショウは燎平、茂木は金子、比呂子は祐子、チャッピーはポンク、そして夏美は夏子。

「青が散る」にはまった中年の皆様にお勧めです。


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