日の名残り
新しい雇い主から与えられたつかのまの休日。執事のスティーヴンスはドライブを兼ねて元女中頭のミス・ケントンを訪ねます。彼女から届いた手紙が結婚生活が不幸であることを匂わせ、職場への復帰を希望するニュアンスが込められていたからです。
旅の途上でスティーヴンスはかつての雇い主、ダーリントン卿に仕えていた頃を回顧します。国際政治の裏舞台とでも言うべき屋敷で品格を持って職務を全うしたことに満足を覚える一方で、やがてダーリントン卿が失脚し、ミス・ケントンが自分に寄せる思いに気づかなかったことで、公私ともに自分の人生が失敗に終わったとうちひしがれてしまいます。
再会したしたミス・ケントンが別れ際に口にした言葉は、互いの寂しさを一層つのらせるものになってしまいました。時計を戻すことは出来ないのです…
小説と映画を続けて観ました。
映画はオリジナルの雰囲気を忠実に再現し、有能で堅物ながら、どこかに憂いを秘めた執事役をアンソニー・ホプキンズがみごとに演じています。
最後がほんの少し変更されていますが、屋敷内の様子を具体的な映像で確認できたことで再読時の楽しみが広がりそうです。
小説のラストシーンは夕暮れ迫る海岸です。桟橋を見つめるすスティーヴンスに同世代の老人が声をかけます。
人生を楽しまなくては。夕方がいちばんいい時間なんだ。みんなそう言うよ、と。
差し出されたハンカチを断ったスティーヴンスは、米国人の新しい雇い主のためにジョークの練習をしようと決意します。
ひたむきで有能な執事の残りの人生を失意の中に放り込まず、ユーモラスに締めくくってくれたイシグロに拍手。