Un gato lo vio −猫は見た

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ジャニス・ジョプリン WOODSTOCK DIARY


ジャニスの声を聞くと、私はいつも心の中で彼女の肩を抱くことになります。

ウッドストック2日目の夜、雨の中ジャニスは登場しました。
「みんな、大丈夫? 寝るところはある? 
「無理しないでね。楽しむために来ているんだから。聴きたい音楽だけ聴いていればいいのよ」

そして彼女は1人だけ別の世界にいました。
魂を削りながら歌っていることはだれの目にも明らか。
1曲歌うごとに彼女の生命が1日分消えていく様がはっきりと見えます。
それはもはや歌を超えてしまったのです。

曲の途中でバンドが演奏を止めます。ジャニスの声だけが響く。
打ち合わせ通りなのかもしれないし、彼女の歌が単なる歌を超えてしまったことを感じて自然に手が止まったのかもしれません。

シャウトするのは自信のなさの裏返しなのか。
彼女のキャリアを知っている現在の私はそんなことを思います。
私を見て、私はここにいる。
でも誰も救えない。
手をさしのべたらそのまま引きずり込まれてしまうでしょう。

がんばれなんて口が裂けても言えないし、そこまでやらなくてもいいんだよとも言えません。どんな言葉も彼女を救うことはできないでしょう。
でも放っておくなんてひどすぎる。
だからウッドストックの古いビデオを観ながら、心の中で彼女の肩にそっと腕を回しているのです。

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ミリオンダラー・ホテル



「オツムが弱い」と自覚しているトムトム。彼は同じホテルで暮らすエロイーズに恋をして自分にもそんな心の動きがあることを初めて知ります。
「彼女はお前が恋するに値しない女だ」親友のイジーはエロイーズの本当の姿をトムトムに知らせ、自分がどんなことをしたのか告げてしまう。

イジー転落死の真相を探るためにFBIの捜査官がミリオンダラー・ホテルに乗り込んでおかしな騒動が始まります。そして意外な印象を残して物語は幕を閉じるのですが、私のツボを刺激したのはホテルとその住人たちでした。

なにしろこのホテルの住人はユニーク。ビートルズの作曲を手がけたと思い込むミュージシャン(ジョン・レノン風)、タールで絵を描くインディアン、アル中、娼婦、口やかましいおばあさん。まるで「めぞん一刻」です。

世をはかなんでいたこの住人たちがイジーの死をきっかけにかりそめの共同体を作り、華やかな時を取り戻そうと画策。
その個性的なあがきっぷりが何とも言えず愛おしいのです。見ている自分までその計画に荷担しているような気になったりして。

エロイーズ役のミラ・ジョヴォヴィッチ。
彼女の視線にはいつもぞくりとさせられます。
映画の原案はボノだとか。
彼の歌で始まるオープニングはそれだけで独立した短編映画のようで唸らせます。
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初夜 イアン・マキューアン



相変わらずの職人ぶりで唸らせてくれました。
すれ違っていくカップルの心の内を残酷なほど冷静に提示しています。

中身については帯と裏表紙の惹句がすばらしいのでそのまま引用します。
 
 「1962年イギリス。
 結婚式を終えたばかりの二人は、
 まだベッドを共にしたことがなかった。」

 「ずっと二人で歩いていけたかもしれない。
 あの夜の出来事さえなければ。」

1962年。
まだビートルズは登場せず、「男女七歳にして席を同じうせず」という道徳観が支配するイギリス。フリーセックスの登場はもう少し先。
自分が感じている不安を言い表す便利な言葉もまだ生まれていません。
合コンなんてあり得ず、今の私たちから見れば、想像以上に窮屈な世界です。

初夜の出来事が二人の運命を大きく変えてしまいます。
それは1962年という時代のせいでもあるけれど、その大部分はふたりが未成熟ということにつきるでしょう。
見栄や羞恥心のなんと下らないことか。
屈辱がなんだというのでしょう。

歳を重ねないとそんなことも分からない、という事実が残念です。
ああ、たった一言かければ……


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