出星前夜
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「雷電本紀」以降、飯島さんの小説は、読後に爽やかな印象を残しています。それは周囲の中傷や侮蔑など一切構うことなく、自分の信じる道をただひたすらに突きすすむ主人公が発するものです。
最新作「出星前夜」も寿安や鬼塚監物の生涯にだけ注目し、第一部とエピローグで幕を閉じる物語であったなら、そこにはまたも爽やかな風が吹くことになったかもしれません。
幕藩体制のゆがみと松倉藩の圧政に苦しめられた島原、天草の農民たちが、寿安の行動をきっかけに反乱へと向かいます。
そして第二部は、反乱する農民たちと討伐軍の詳細な戦況報告。毎日の戦闘の様子と、死傷者の数が淡々とつづられ、私は「もう止めてくれ」とつぶやくのでした。
ひとたび闘いが起きてしまったら、もはや双方の大義名分など消え失せ、正義も悪もありません。ふだんどれほどの人徳者であっても、心優しい母親であっても、他人を殺すことにためらいを感じなくなる。
エピローグで記される、その後の寿安の活躍を以てしても、ひとの愚かさの前には、もはや爽やかな風は吹きようがなかったのです。