Un gato lo vio −猫は見た

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悪霊



歳を取るのも悪くないものだ。
二十数年ぶりに「悪霊」を読み返してみた。ストーリーのかけらも覚えていなかったから、高校生の私は、ドストエフスキーをある種の通過儀礼のように感じて、ただ活字を追っただけだったのだろう。しかし、不惑の私にはこれが恋愛小説として楽しめたのだから歳は取ってみるものだ。

 ステパン氏とワルワーラ婦人はともにろくでもない息子がいる。革命思想を振りかざし、穏やかではないことに首を突っ込んでいる。たいそうなことを言って、血なまぐさい事件を巻き起こしたりしているのだが、まあ、おぼっちゃんのたわごとだ。

ワルワーラ婦人の客分として二十年以上にわたってつきあってきたステパン氏は、自分の婦人に対する恋心を押し殺していた。なにせ身分が違ったし、すぐに自分を卑下してしまうくせがあった。一方婦人も、そんな気の利かない客分に自分が恋愛感情を抱いているとは最期まで気づかない。養子の女の子を嫁がせようとまでする。ステパン氏は旅先で病を得てなくなる運命にあるのだが、最期を看取ったのは婦人だった。はるばるかけつけ、医者を呼び、一人で看病する様は、彼女もステパン氏に思いを抱いていたのだなと、ほろりとさせられる。

つまらない見栄など張らず、お互いの気持ちを確かめ合う機会があれば、この二人は違った人生を歩めたはずなのに。二十年。若いときには永遠に思える年月も過ぎてしまえば一瞬だ。
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いつか、きっと   監督:オリヴィエ・ダーン



シルヴィアがくまのぬいぐるみを抱えて捨てた子どもを見守るシーンがある。会いたい、けれど、いまさらどんな顔で会えばいいのか。葛藤する彼女の表情はすさんでいた物語の前半とは異なり、母親のそれへと変わっていく。拒絶を怖れる頼りなげな表情は、受け入れることができるようになった証でもあるだろう。逃亡生活の希望としていた元夫が再婚していたように、シルヴィアの人生はまだまだ紆余曲折が待っていそうだ。けれど、拒絶するだけの人生から抜け出すことができそうな彼女に、よかったね、と声をかけてあげたい。

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