まぼろし 監督:フランソワ・オゾン
なんだか覚えのある雰囲気だと思ったら「Swimming Pool」と同じオゾン作品でした。幻と暮らすという同じモチーフで、映画としてはSwimmingの方が緊張感漂うスリリングな仕上がりの分楽しめました。しかし、「まぼろし」では、失踪した配偶者を忘れられず、あと一歩で現実の生活から逸脱してしまいそうな危うさに深い共感を覚えます。
愛する者を失って苦しむ人にわたしたちは、「彼/彼女のことは忘れて、新しい生活を始めるべきだ。いつまでもくよくしても仕方ない」という助言をおくりがちです。でも、そのことばは想像力を欠いています。忘れることができるならそもそも苦しみはしないのです。そして残された者が日常生活に踏みとどまるのか、踏みとどまれないのか、それはだれにもわかりません。新しい出逢いや、なぐさめのことばにも限界はあるのです。