白鯨
古典中の古典の1つとしてタイトルだけは知っていた「白鯨」。エイハブ船長だのモビー・ディックだのという固有名詞も知ってたけど、映画で見たらあまりにどひゃーなお話でびっくり。若干のチープ感がただよう驚きのラストシーン(本当に2010年制作?)にも口があんぐりでした。
見所の1つは、エイハブ船長の狂気。
この人は自分の片足をちぎった白鯨憎しと、ただ復讐に向かって猛進するのではないのです。あくまでも商業捕鯨でお金も儲けるから、憎き鯨を見つけたときは協力してね、というスタンスで船員を集めておきながら、徐々に人心を把握して自分の私闘のために彼らを巻き込んでしまうのです。
その過程は実に見事であり、同時に空恐ろしさを感じさせるのでした。その場にいたら私だって「モビー・ディックを殺せ!」と叫び、あえなく海の藻屑と消えたでしょう。自然さえも制御できると愚かしいことを信じた人間に対する報いですね。
もうひとつ見せてくれたのは敬虔なキリスト教徒である一等航海士スターバックの苦悩。
彼は船長の狂気に気づいています。エイハブの意のままに航海しては乗組員の安全が保証できない、しかし敬愛する人物の尊厳は傷つけたくない。そして妥協点を探しきれないままに下した苦渋の決断。
これを実行できなかったことが悲劇の最終的な引き金となります。
助かる道を捨てて自ら海に沈んだのは自責の念なのかもしれません。
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この記事に対するコメント
丁度おととい、橋本治さんの短編集を読んでいまして。その中で登場人物の男の子のことを
「メルヴェルの「白鯨」を知っていたら、「お前はエイハブ船長か」と突っ込むこともできただろうが、生憎そんな知識が無かった」
と書いていました。ワタシも何となく知ってるだけでちゃんとは知らないなぁと思って読み過ごしたので、あまりにタイムリーにご馳走さまでした。
思いの外聖書色が強いものなのですね。そういえばスターバックスもここから。
「お前はエイハブ船長かと……、生憎そんな知識が無かった」ですが、私、最近その文章をどこかで目にしていました。手元にはないので図書館か書店だったと思いますが、そうか、橋本さんの短編でしたか。
うーん、偶然のリンクは続きますね。
エイハブ船長はほんと、ひどい人ですよ。彼の船に乗ったらあきらめが肝心です。