ばらの騎士 リヒャルト・シュトラウス
1994年ウィーン国立歌劇場、カルロス・クライバー指揮
好色なおっさんをこらしめ、時の移ろいの残酷さを実感し始めた女性の引き際を称賛するストーリーは「フィガロの結婚」とコレット「シェリ」を融合したよう。中年女性のしたたかさと若者の無邪気さの対比が楽しく、あっという間の3時間でした。
存在感の大きさは元帥夫人がいちばんでしょう。夫の不在中に17歳の伯爵オクタヴィアンを引き入れて恋愛遊戯に耽ります。うっかり漏らした言葉によれば、これまでにも若い男を取っ替え引っ替えしていた様子。どうやら自らの衰えを自覚したが故のあせりのようです。
彼女が見事だったのは、若い男が若い娘に走るのは必然であると理解しており、情事に執着しなかったこと。好色な従兄オックス男爵の結婚話と彼のオクタヴィアンへの執着を利用して捨てられる前に自ら退いてしまう姿は、以前から引き際のタイミングを窺っていたとしか思えません。オックスの婚約相手と恋に落ちたオクタヴィアンに対して、若い人同士でお幸せにね、なんて格好良すぎでしょう。
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