Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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未成年 

この物語を一人称の語りで進めるのは、自尊心が高いくせに世間知らずで頭でっかちなアルカージイ君。くどすぎる喋りと突飛な行動のくり返しにイライラと惑わされてしまうのですが、物語の核心となるのは実父であるヴェルシーロフ。

貴族出身の彼は平等な価値観を持った世界人でありたいという「高邁な思想」を抱く一方、女性にくらくらしてしまう弱点を抱えているのでした。出会うご婦人方に衝動的に対処するものだから、あちらこちらでトラブルの種を捲いてしまい、異腹の子どもたちや内縁の妻は大迷惑を被ってしまいます。

家族を不幸に突き落とす人間に人類の幸福や未来を語る資格はあるのか? 政治家が善人である必要はないという意見同様に、議論しても決着がつかない問題ですね。

ドストエフスキーの小説で共通して興味を惹かれるのは、自分たちを二流の民族だと卑下するロシア人の心持ちです。一方で、「イデーを総和させて世界市民になれるのもロシア民族だけ」だと自負し、少なからぬ登場人物が両極端な思いに引き裂かれるように精神の分裂を起こしてしまう。
これ、一般的なロシア人の傾向なのか、この作家の特徴なのか、詳しい方がいたら教えていただきたいものです。

そうそう、当時のロシアでは死別しないかぎり離婚できなかったこと、農奴制が崩壊し、社会主義思想が広がり始めていたことなどが読み始める前に分かっていなかったため、「なぜにその発言?」と何度も頭をひねることになりました。
学校でいったい何を習っていたんだ、私は。

 

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楽園のカンヴァス

アンリ・ルソーの大コレクターであるバイラーは死期を悟り、所有する大作を世界的権威に鑑定依頼して優れた講評を述べた人物に取扱権を譲渡すると決意。選ばれたのはMoMAアシスタントキュレーターのティム・ブラウンと新進気鋭の研究者、早川織絵。

真贋の判定方法は、7章からなる書物を毎日1章ずつ読み進めるという奇妙なもの。MoMA所蔵「夢」に酷似した「夢を見た」は果たして本物なのか、いずれが勝者となるのか、そして譲渡の意図は。

ストーリー展開のスリリングさもさることながら、作者の絵画作品に対する姿勢が興味深かった。作中の主要人物は何百時間も一つの作品と対峙し、作家の意思、情熱を探り当てようとします。もちろん、原田さん自身も同様か、それ以上の熱意を持って対象作品に向かい合っているでしょう。1つの作品からこのような物語を紡ぎ出すほどなのですから。

新しい視点を与えてもらえるとはなんと楽しいことだろう。私自身も「日曜画家」レベルじゃないの? と見ていたルソーに対する別な視点を教えてもらいました。

そして、他の画家に対しても柔軟な心、素直な気持で作品に対峙したいと思いますね。これまで、原田さんや、作中人物と同じように、とことん絵画作品に向き合ったことはなかったなあ。

作中に現れるルソーの物語だけを独立させ、細部をもっとふくらませても興味深い作品になりそうです。

 

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ウォーターメソッドマン

映画「ホテル・ニューハンプシャー」は、登場人物が勢ぞろいするラストシーンが最高でした。生者も死者も、好い人も悪い人も、熊も犬も、みんなが笑顔でホテルの庭に集う様子は、原作に通底する人生賛歌を肯定的に表現しています。

この場面、小説にもあれば良かったのにと思っていたところ、なんと、別の作品にその原型を見つけてしまいました。

最近は新刊本に気を惹かれることもなく、もっぱら過去のお気に入りを再読していまして、先日選んだのはアーヴィング2作目の長編「ウォーターメソッドマン」。
不器用すぎて2人の妻と子ども、友人や親などに迷惑ばかりかけているトランパー君が、ついに自らの責任を意識して大人になろうと決意するお話。

あまりの駄目さ加減に(自分を見ているようで)いらいらし通しでしたが、誰もが人生を謳歌すべき、生きているって素晴らしいんだから、と達観する最終章。明け方の海辺で起き上がろうとするトランパー君を祝福するかのように、家の窓が開き、家族や友人が朗らかに声をかける場面はまさに、ニューハンプシャーのラストシーンそのもの。

映画の脚本家がこの最終章からアイディアを拝借したのだとしたら、やはり目の付け所が良いと唸らざるを得ませんね。

 

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4321 ポール・オースター

アーチー・ファーガソン君の誕生から青年時代までを描いた成長物語。
彼は激動の50年代〜70年代に青春時代を過ごし、様々な喜びや苦しみを経て成長していくことになります。その後の世代として生まれた私は、憧れの時代の雰囲気を自分の肌感覚を通して味わっているような気分に浸れました。ただ、それで終われば、よくできた小説というだけの話。ところが、オースターはこの小説にとんでもない仕掛けを用意していました。

あのとき別な道を通っていたら何が起きたのだろう、違う学校に進学していたらどんな仕事に就いてたのだろう、そんなあり得たかもしれない違う人生を想像することないですか? オースターはその問いの答えを「4321」で示そうと試みているのです。そう、なんとアーチー君の4つの可能な人生を並列して展開しているのです。だからこそ手に取ることが憚られるような分厚さ。つまり4冊分なんですね。

読み進むに従ってタイトル「4321」の意味が分かり始めるし、最後の最後に「百年の孤独」のラストを思い出させるようなオチが用意されています。ええっ、そう来るの?!

並行して進む彼の複数の人生を眺めていると、自分の人生も偶然(あるいは必然?)の積み重ねでここまで到達してきたことを実感するし、その歩みが唐突に断ち切られる可能性だってあるんだと、ある種のあきらめも感じます。人生は自分に都合良いように進んではくれない。

オースターの経歴と見比べてみると、作者自身がモデルなのは明らか。最近、過去を振り返る著作が続いていましたので、その集大成という意味合いもあるのかな。どの人生でも、もれなく恋人が見つかってしまうのは憎いけれど。

 

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性欲が人並み外れた妻とそれを満足させようとする夫の奮闘記。

妻より一回り以上歳上で、しかも精力の衰えを感じる大学教授の夫は、毎晩のように要求しながらもほとんど反応を示してくれない郁子を満足させるため、己の嫉妬心を燃え上がらせて、その勢いで夫婦生活に挑もうと思いつきます。

その具体的方法がなかなかえぐい(でもナイスなアイディア)。娘の婚約者である木村と郁子を接近させ、さらには秘密を記した互いの日記を盗み読みし合うことで興奮を高めようというのです。夫の真意を汲み、演技で木村への好意を示していた郁子でしたが、やがて本気になってしまい、夫の興奮は最高潮に。

一見、異常な夫婦に見えます。しかし、2人の行動は、相手を満足させたいという愛情によってもたらされたもの。本人たちの思惑とは異なる状況へ事が進んでしまいますが、それでも他の谷崎小説に登場するカップルと比較してもっとも純愛度が高く思えます。

興味深いのは娘の敏子ですね。自分の婚約者と母親が接近することに嫌悪を感じるどころか、積極的に状況をお膳立てするのですから。
気付いてしまった家庭の秘密をおもしろがり、3人が織りなす秘やかなドラマを舞台監督よろしく操っているようです。確かに面白そうではあるけれど。

 

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騎士団長殺し

友人から譲ってもらい、遅ればせながら読了。
春樹さんは自分の目指す小説に近づけたのだろうか? といらぬ心配をしつつも、馴染んだ文体をいつものように楽しませてもらいました。

村上作品は、作家本人の意見が反映される装幀も見どころのひとつです。カバー装画の剣もよく見ると羊のデザインが施されていたりして、往年のファンをニヤリとさせてくれます。

見返しの紙は色も含めて何となく日本画や掛け軸の表装を連想させるし、各章のタイトルも工夫が凝らされていますね。装幀に係わる人たちがわいわい楽しみながら作業していたのではないかと想像してしまう仕上がり。なんとも幸運な本です。

 

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アンナ・カレーニナ

離婚騒ぎでもめる兄夫婦の調停にモスクワへ向かったアンナは、そこで貴族の軍人ヴロンスキーに出会います。彼は社交界デビューを果たしたばかりの少女キチイをものにしようと目論んでいましたが、アンナの姿を認めるや、素早く目標を変更。美しく高い精神性で評判を呼んでいたアンナですが、やがてヴロンスキーと恋に落ち、夫と子どもを捨てて破天荒な人生を歩み始めることに。

一方、ヴロンスキーに振られたキチイは、野暮ったくも実直な領主リョービンの求婚を受け入れて田舎へ移り、理想の農地経営に燃える夫を支えることになるのでした。

2組の夫婦の対照的な歩みを中心に物語は進み、そして、中盤以降は破滅に向かって突き進むアンナの混乱ぶりが際立ってきます。
アンナ、どうしてしまったんだよ、とやきもきする一方で、18世紀末のロシアが置かれた状況にどんどん惹きつけられていきました。

トルストイは膨大な登場人物を配し、宗教、農地解放、革命、男女格差と離婚、国際政治、そしてロシア人のアイデンティティなど実に様々な問題を取り上げています。そこには世界はもっと良くなるはず、人はもっと賢明になれるはず、という作者の熱意があふれ、読み手に「そう思うだろう」と力強く語りかけているように感じるのでした。

トルストイ渾身の力技、未読の方は是非一読を。最後まで飽きさせませんよ。

 

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ジヴェルニーの食卓

マティスとピカソ、ドガ、セザンヌ、モネの人生を垣間見せてくれる4つの物語を収めた短編集。

新しい絵画の時代を代表するこれら画家の作品は各種の展覧会でたびたび目にする機会があり、身近な印象を覚えていましたが、さて、ご本人たちについて思いを馳せると具体像が何も浮かばす、身近とはいいがたい存在でした。

原田さんは画家を取り巻く人たちの目を通して彼らの日常や制作の現場を再現して見せ、彼らが創作に苦悩するばかりではなく、ささやかな出来事に心を楽しませたり、些事に煩わされたりする一人の人間であったことを示してます。

印象派の作品そのもののように光に満ちていて、できるものなら額に入れて飾っておきたいと思わせる美しい物語たちでした。

 

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The World According to Bob(ボブがくれた世界 ぼくらの小さな冒険)

ボブを世界的有名猫にした「ボブという名のストリート・キャット」の続編です。

両親の離婚をきっかけに薬物依存症となり、若くしてホームレス生活を送っていたジェームズ君でしたが、「ビッグイシュー」を路上販売することで、なんとかその日暮らしを維持できるまでに快復。
ある日、そんな彼の前に迷い猫が現れ、「選ばれてしまった」ジェームズ君はアパートで共同生活を送ることに。

ひとつの命を預かったジェームズ君の生活はその日を境に変わり始めます。やがて、彼らは互いの孤独を癒し合い、ベストパートナー、ソウルメイトとして絆を深め、ついにはストリート生活と決別、希望を獲得することになるのでした。

猫好きにはたまらないエピソード満載です。ただ、この著作の魅力はチャーミングな「ボブ」の活躍だけにあるのではありません。どん底の暮らしにあえぎ、なんとかそこから這い上がろうとするジェームズ君の努力と挫折が、本人の率直な言葉で、しかも、深刻にならない口調で記されている点が共感を誘い、世の中で苦闘する大勢の人々に対する新たな視線を提示してくれたことが素晴らしい。

ボブはジェームズ君の生活を救っただけではないのです。まさにスーパーキャット。

そう、そしてこの本を読んでいる間中、共に過ごした猫たちとの思い出がまざまざとよみがえり(私も猫に選ばれた口でした)、楽しくも切ない気持に浸ってしまいました。最後に残った雄猫との日々を大切に過ごそう、改めてそう思わせてくれた1冊です。

 

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初恋

受験を控えた夏を過ごすため、両親と共にモスクワの別荘を訪れたウラディーミル(ヴォリデマール)君、16才。隣家に滞在していたのは夫の死で困窮生活を余儀なくされた公爵夫人と21才の美しい娘ズィナイーダ。

一目で恋に落ちたウラディーミル君でしたが、ライバルが目白押し。こりゃあ、最年少の自分に勝ち目はないなあ、と思いつつ、あこがれのお姉様を追いかけ回すのですが、実は本当のライバルが意外なところに潜んでいるのでした。

種明かししてしまいますが、ズィナイーダがあこがれたのはウラディーミル君の父親。なんという、嫌な状況でしょう。

妻が10才年上で、金銭尽くの結婚だといっても、息子の恋愛対象を奪うことはないじゃないですか。40にして迷わずどころか、ズィナイーダを別邸に囲ったり結婚を迫ったりと、若者顔負けの猪突ぶり。息子の人格形成に影を落とすなんてことは想像の埒外のようです。ああ、こまった親父だ。でも、それが恋というものなのかなあ。

奥付の発行日を見ると、私は高校1年か2年の頃にこの本を読んでいたようです。でもあの頃、本当にこの物語を楽しんだとは思えない。再読して良かった。併載の「片恋」は一転して、煮え切らない性格故に恋を失う男のお話。これも同様楽しめました。

が、どちらにしろ、貴族のお坊ちゃまたちは気楽で好いよなあ、という身も蓋もない感想も浮かんだりするのです。

カバー写真の女優が気になって調べたところ、なんと、ドミニク・サンダでした。映画「初恋」が3作目。
デビュー作「やさしい女」ではトラブルのにおいを紛々とさせた挑戦的な視線が印象的でした。
映画も観てみたいな。

 

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