小早川家の秋 小津安二郎
京都で造り酒屋を営む小早川(こはやがわ)家。主人の万兵衛は妻を亡くして隠居の身となり、店は長女文子夫婦が仕切っています。彼らの喫緊の悩みは早逝した長男の未亡人秋子と次女紀子の縁談、そして大手企業との合併話。どちらも進展しない中、万兵衛とかつての愛人の間で焼け木杭に火がつき、文子は激怒。はてさて、一家の騒動はどう落ち着くのでしょう。
万兵衛と元愛人つねの屈託のなさが良かった。しかも京言葉(?)による台詞のせいか、辛辣な会話にもある種の軽妙さが感じられて、二人の達観した雰囲気が際立ちます。あっけなく万兵衛が亡くなってもつねに深刻さはなく、人が生まれて死ぬのは当たり前とばかりに、さばさばと事を運びます。これまで相応の苦労を背負ってきたにせよ、この二人は自分の思うように生きたのだな、と羨ましくなってしまった。存分に生きてあっけなく死にたいものです。
紀子三部作は実は周吉に理想の「うーん」を言わせる試みだったのではないかと片岡義男が書いていましたが、晩年の作品では原節子に何度も「私このままでいいんです」と言わせていることに気づきました。おそらくこれが小津との決別の原因なのでは? 原さんはそんな消極的な役柄に嫌気が差していたのではないだろうか。
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