Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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薔薇は死んだ   アッティラ・スアース

第一次世界大戦前夜のブダペスト。高級娼婦エルザの遺体が納められたバスケットがドナウ河畔に流れ着くところから映画は始まります。

 

エルザが新しい使用人カトゥを雇い入れたことが事の発端。彼女の屋敷では同じく元娼婦であり友人・愛人同士でもあったロージが家事を取り仕切っていました。そして豪奢な生活を支えているのは建築家のマックス。

 

4人がそれぞれに対して抱く気持は複雑で矛盾を抱えています。それは当事者同士の過去の人間関係に起因する感情の発露によってめまぐるしく変化し、マックスを頂点とする序列上位者が下を従属させているという構図も状況によって容易に逆転したりするのです。3人の女と1人の男の抜き差しならぬ愛憎劇は泥沼化、若きカトゥの将来にも暗雲が漂うのでした。

 

ブダペストの街並みは美しく、そして女性3人の演技も素晴らしかった。中でもエルザ役パトリシア・コヴァーチの妖しさには魂ごと吸い寄せられてしまいそうでした。うかつに知り合いになったら間違いなく骨抜きにされてしまい、自分も又バスケットに入れられて岸辺に流れ着いてしまうかもしれない。おお、こわ。

 

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渚にて   スタンリー・クレイマー

冷戦下でついに核戦争が勃発し、既に北半球の人類は滅亡。わずかに生き残ったのはオーストラリア大陸の人々と、海中を潜航していた米原潜乗組員のみ。オーストラリアが放射能に汚染される日も迫ったある日、豪海軍は米サンディエゴからの無電を受信。誰が打電したのか調査するため、潜水艦は母国へ向かうことに。

 

今見てもスリリングな設定にどきどきします。核兵器の拡大競争が続いていた当時は今よりもっと現実味があったはずですし、実際、数年後にはキューバ危機が起こっています。いよいよ映画が現実のものとなる、という恐怖が世界を覆っていたと想像します。

 

映画としてはストレートでなんのひねりもないけれど、制作者の目的は「思いとどまるなら今しかない」と真正面からメッセージをぶつけることだったのでしょう。その内容が今もなお有用であることが残念で、そして恐ろしい……

 

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夜   ミケランジェロ・アントニオーニ

人気作家ジョバンニ・ポンターノ夫妻の虚ろな一日をスタイリッシュに描いた映画。

 

ジョバンニは将来を嘱望され、妻リディアは資産家の娘。若くして名声も富も約束された2人でしたが、その愛情は冷め始めていたようです。

 

末期の友人を共に病院に見舞い、サイン会に出席した後は無言のままに別行動。退屈な夜を避けるかのように富豪のパーティーを訪れた際も、それぞれが気になる相手を見つけて軽いお楽しみに興じ、その場面を目撃しても嫉妬心すら湧き上がりません。夜明けを迎えた2人は互いの心が離れてしまったことを確認したのでした。

 

映画としてはクールに過ぎて、私向きではなかった。俳優の表情には魅入られてしまいましたけど。若きマストロヤンニの憂鬱な雰囲気には引き込まれるものがあるし、徹底的に冷めたジャンヌ・モローの無表情が、当事者でもない私の心を不安に陥れるのでした。

 

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誰もがそれを知っている   アスガー・ファルハディ

妹の結婚式に出席するため、アルゼンチンからスペインの小さな村に里帰りしたラウラと子どもたち。お祝いムードに浮き立っていた一家ですが、パーティー中に娘のイレーネが誘拐されてしまいます。その場の状況から犯人は身内か親しい知人と推測され、小さな村は疑心暗鬼に陥ることになるのでした。

 

タイトルが示す公然の秘密を推測することや、犯人捜しが映画の主題ではありません。誰もが知らないふりをしていた事柄を当事者同士が口にすることで、一見調和が保たれていた家族や村の関係にひびが入り、事件に係わった全ての人たちは傷を抱えながらの再出発を余儀なくされてしまうのです。私たちの平穏な暮らしは実にもろい土台の上に成り立っているという認識を緊迫感のある画面が要求します。

 

誰もが知り合い同士であるという狭い共同体は、ハレの席で一体感のある盛り上がりを見せる反面、恨みや嫉妬などが根深くいつまでも消えないという息苦しさがつきまとう。そのような背景の見せ方が舌を巻くほど巧みでした。俳優もその舞台に溶け込み、過剰な表現ではないにもかかわらず、説得力のある演技を見せていました(パコ君、気の毒すぎます…)。

 

時々こういう作品に当たるから映画館通いが止められないんだなあ。

 

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東京物語   小津安二郎

小津ファンを自認している以上、「東京物語」は過去に何度か観ているわけですが、名作と絶賛されるほどの映画にしては何かが足りないような気がしていました。同じ監督でも他にもっと面白いのあるけど、なんて。

 

で、いわゆる「紀子三部作」として3作続けて観たら印象が変わるだろうかと思い、再度画面の前に座った次第。3人の紀子は同一人物ではありませんが、続けて観ていると、彼女の持つ結婚観が変化していく様が面白かった。

 

そして片岡義男が言うように、むしろ「周吉三部作」として捉えるととても腑に落ちるものがありました。年老いた独り身の男に漂う哀感をどのように見せるか。理想の「うーん」というセリフを求めて紀子に様々な役を割り振ったという意見に一票入れたいですね。

 

そしてもちろん、この映画単独で観ても面白さが損なわれることはなく、やっぱり世の評価に値する作品だなと再認識。

 

そう思ったのはおそらく、デジタルリマスター版で観たからです。以前目にした画面では、親をないがしろにする子どもたちの薄情さと残された父の哀しみに覆われた陰鬱な印象が強かったのだけれど、修復作業のおかげで画面が一気に明るくなり、台詞も明瞭で、それだけで全く違う映画のように感じてしまいました。

 

明るい画面で観ると、家族のあり方は年月と共に変化するものだ、それは仕方のないことだという諦観があっけらかんと表現されるように思います。その後、高度経済成長へと向かう街も明るい雰囲気に満ちあふれ、いつまでも戦後じゃないという気概さえ感じられます。亡夫の両親に孝養を尽くす紀子も過去を捨て(「私、狡いんです」)、新しい自分の生活に向けて一歩を踏み出す覚悟を決めているのでした。

 

そうそう、人をイライラさせる杉村春子はとても演技に見えない。全く以て素晴らしい。

 

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愛しき人生のつくり方   ジャン=ポール・ルーブ

作家志望のロマン君は家族思いの好青年。連れ合いをなくして一人になった祖母宅をまめに訪れるし、定年を迎えてイライラする父と、そんな夫にうんざりする母の仲を何気なく仲裁したりします。恋人がいたらいいなと思いながら、現在は軽いノリの友人と同居中。

 

さて、祖母マドレーヌが怪我をして施設に一時入居した時のこと。父とその兄弟達が彼女のアパートを勝手に処分してしまい、怒ったマドレーヌは施設から逃亡。そして、行方を捜すことになったロマン君は旅の途中で恋を見つけ、祖母の願いを叶え、不協和音が生じた両親に和解のきっかけを与え、めでたし、めでたし。

 

個人的には父親役ミシェル・ブランの存在感が一番の見所でした。退職で心のよりどころを失ったことを隠すかのようにイライラして、妻や弟たちには命令口調。でも重要な場面で決定を下せなくなった、ちょっと面倒くさいおっさんなのです。ただ、妙に素直なところがあって、子供の助言にも従ったりする可愛らしさがマイナス面をカバーしてしまう。「仕立て屋の恋」で見せた計算され尽くされた非の打ち所のない演技には脱帽したものですが、こんなチャーミングな役を軽くこなすところもナイスです。

 

ところで、ハートウォーミング系(?)映画の邦題って、ことごとく安直なハウツー本の題名のようで、タイトルを聞いてもどれがどれだか区別がつかなくなってきました。そろそろ別な工夫を凝らして欲しいものです。

 

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未来を乗り換えた男   クリスティアン・ペッツォルト

ドイツ軍によるフランス侵攻を現代に再現するというアイディアにやられた。物語の設定が今になることで欧州が抱える現在の難民問題をも取り上げることが可能になり、先の見通せない不安感が重層的に迫ってくるのでした。

 

エンドロールで流れるトーキング・ヘッズの唐突な明るさには面食らってしまいましたが、記憶を探ってみれば曲のタイトルは「Road to Nowhere」。迫害を逃れようとマルセイユに集まった人々の状況を端的に表しています。行くこともならず退くこともならない状況は程度の差こそあれ、観客の私たちにもあてはまるもの。他人事じゃないことに気づくと怖ろしさに身がすくみそうになります。こりゃもう、夢に見てしまうな。

 

クリスティアン・ペッツォルト監督の作品を観るのは「東ベルリンから来た女」「あの日のように抱きしめて」に次いで3作目。閉塞状況に置かれた人たちの不安がにじみ出る緊張感漂う画面、そこに独特な情緒をミックスした作風にすっかり惹きつけられています。次作も期待です。

 

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家へ帰ろう   パブロ・ソラルス

人生の終盤を迎えた男が遠い昔に友と交わした約束を果たすため遙かな旅路を辿る。本当にただそれだけのお話なのに、胸に迫るものがありました。人はひょんなことからとんでもない事を成し遂げてしまえるものなんだ。

 

そもそもアブラハムは約束の事なんて忘れていました。頭にあるのは、どうすれば子供たちの言いなりにならずに済むかということ。いくら役立たずであろうと相棒「ツーレス(脚)」を切断したくないし、施設入りなんてとんでもない。ところが、自宅で過ごす最後の日に友のために仕立てたスーツが発見され、そうだ、あいつに届けなくちゃ、と勇み立つことになるのですからねえ。

 

その約束は70年前に交わしたもので、目的地はアルゼンチンから遙かに遠いポーランド。しかも、ホロコーストを生き延びたユダヤ人のアブラハムとしてはドイツだけは通りたくない。おお、前途多難です。

 

でも思い出した約束を果たさなければ、人の道に背くとアブラハムは感じたのでしょう。旅先で無茶な突進をくり返しても、出会った人々は彼の熱意に気持を揺り動かされ、つい救いの手をさしのべてしまうことになるのでした。

 

生涯最後の大仕事が行きずりの善意に支えられたからこそ、ラストシーンに胸を打たれたのでした。

 

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ハモンハモン   ビガス・ルナ

物語が結末に向かって収束しはじめ、そしてラストシーン。ええっ、これコメディ映画だったのか…… 欧州の人たちのユーモアって日本人の私には理解できないことがままあるわけでして、文化が違うんだなあ、と改めて感じる次第。

 

この映画は2組の親子と1人の青年が繰り広げる恋愛劇。乾燥して荒涼とした土地柄が生み出す気質なのか、登場人物たちの神経はどこかささくれだっていて、刹那的な快楽に身を委ねがち。もちろんその傾向は恋愛においても変わらず、年の差や人間関係など超越した無節操な6角関係が展開されてしまうのでした。

 

マストロヤンニ主演の「華麗なる殺人」も最後までコメディだって気づかなかったけれど、あれは振り返ってみれば突っ込みどころが盛りだくさんのご機嫌な映画だった。一方、この映画では登場人物が揃いも揃って自分勝手でげんなり。スペインの人たちはどのように反応したんだろう? もしかすると、恋愛=情熱=自己中心的で正解なのかもしれない。ラストシーンはあまりにばかばかしくて笑えたけれど、娯楽作品と言うには見ていて辛い場面が(私には)多過ぎました。

 

見所は、初々しいペネロペ・クルスの演技でしょうか。のちの映画で見せる地に足のついたスペイン女の風格がすでに見え隠れしていました。彼女の良さは強靭な意志ともろい感情の同居にあると思います。その素材の良さをが存分に発揮されるのはハリウッドではなくスペインなのだと、このデビュー作で再認識しました。

 

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アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語   カレン・シャフナザーロフ

原作からアンナとヴロンスキーの物語だけを抽出、そこに日露戦争に従事したヴロンスキーが当時を振り返るというオリジナル設定を加わえた長編でした。

 

アンナファンの私としては、ヴロンスキーが都合良く事実をねじ曲げていたら許さん! という意気込みでスクリーンに向かいましたが、特にひねりはなく原作通り。淑女の見本として社交界の花形だったアンナが女たらしに惚れてしまい、あれよあれよという間に身を持ち崩してしまうお話。

 

ひねりはないと言うものの、スクリーンに繰り広げられる絢爛絵巻には息を吞みました。貴族の邸宅や舞踏場のスケールが私のちっぽけな想像力をはるかに超えていたのです。何十畳もあるような部屋が連なり、どの壁にももれなく巨大な絵画。高い天井からはシャンデリア群がまばゆい光を放ち、ちょっとした宮殿といった趣です。やれやれ、当時の貴族はどれだけ領地からの上がりがあったのでしょう(領民はどれだけ絞られていたのか)?

俳優が纏う衣装、装身具もきらびやかでした。いや、もうストーリー関係なしにファッションショーとしても楽しめる。

 

とりわけ目を惹いたのはアンナですが、その理由はマネの絵を思い出させるから。特にモリゾを描いた一連の作品と実に雰囲気が似ているんだなあ。もしかしたらマネに触発されていくつかのシーンを撮ったのかな、と感じます。

競馬のシーンはドガの描いた競馬場作品そのものだった。ああ、緑が目にしみる、なんとも優雅だなあ。

 

原作未読の方には映画を先に見ることをお薦めします!

 

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