Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
<< September 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>

マルクス・エンゲルス

産業革命によって資本家と労働者の格差が絶望的に広がった19世紀ヨーロッパ。舌鋒鋭く社会批判を行うマルクスは国を追放され、資本家の息子として生まれたエンゲルスは労働者の苦境を見かねて社会主義に傾倒。そんな二人が出会い、志を同じくした妻たちとともに「共産党宣言」を完成させる物語。

 

個人的には、共産党宣言が執筆されるに至った時代背景が理解できたことは良かったけれど、映画作品としての出来に突出したところは感じませんでした。でも、資本主義経済が行き詰まり閉塞感に覆われる今だからこそ、この映画に描かれた若き二人の情熱に接する価値はあると思います。世界は変わらなければならない(変わって欲しい)。

 

倫社の授業で社会思想史を学んだ折、マルクスとエンゲルスに激しく心を揺さぶられたことを思い出しました。もう、すっかり忘れていたけれど、進学先を決める大きなきっかけがこの二人でした。

 

ずぼらな学生だった私は入学したとたんに高校時代の感動を忘れ去って、結局共産党宣言すら読み通しませんでした(先生、卒論まだ提出していません。ごめんなさい)。結局、私のように無批判な人間が支配者層に馴化され、資本家の搾取を許し続けているのでしょう。反省せねば。

 

 

エンゲルスは工場経営者の息子でありながら労働者の苦境に目を向けました。彼は特異な存在だったのでしょうか? 己の利益のみを良しとしない態度は当時の社会主義思想の影響なのでしょうが、あっぱれな心意気ですよね。時に及び腰になるマルクスの尻を叩いてくれたことにも感謝です。

 

公式サイトはこちら

 

 

JUGEMテーマ:映画

 

映画 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

近松物語

これまで観てきた映画の中でも個人的ベスト10クラスの美しい作品でした。同じ溝口監督では「山椒大夫」や「雨月物語」も印象的でしたが、この映画の仕上がりは頭ひとつ抜きんでているように感じます。

 

時は江戸時代、京都で関白の御用を承る大店が舞台。内儀の兄が金の無心に来たことをきっかけに運命の歯車が回り出し、職人上がりの有能な手代と内儀が不義密通の濡れ衣を着せられてしまいます。ところが、逃亡中に二人は心を通わせて本物の咎人となってしまい、一方、店と己の体面を守ろうとする主人の画策は使用人やライバル店の邪魔にあって功を奏さず。関係者は皆、失意の最後を迎えてしまうのでした。

 

時代劇という表現の到達点のひとつに数えられる作品だと思います。完成の域に達した様式美に感嘆の声をあげ、浸りきる心地良さ。演技も物語も時代劇に要求される枠をはみ出るものではありません。しかし、同じ形式を積み重ねた挙げ句に到達した洗練の極みですね、これは。

 

優れた美術品や音楽に似て、何度でも体験したくなります。実際、1週間に2度見てしまいましたが、まったく飽きるということがなく、美しさにため息がこぼれるばかりです。この先も任意の一部分だけを選んで楽しむ機会がありそうです。

 

JUGEMテーマ:映画

映画 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

細雪

日中戦争が世界大戦へ拡大しそうな時局の中で、関西の旧家出身4姉妹の生活を通して、伝統的価値観が現代的価値観へと取って代われるさまを描いています。

 

言わずとしれた谷崎潤一郎の代表作ですが、これまで「刺青」「痴人の愛」「鍵」などをはじめ、いくつかの小説を楽しんできた私には実に意外な印象でした。というのも、他の作品とは違って、登場人物がいたってまともな人ばかり。抑えきれない情慾に身悶えする人が見あたらないのです。

 

作家が美しいと信じる古き良き風習や価値観が失われてしまうことを惜しみながら慈しむ、これがこの小説の楽しみ方でしょうかね。薄闇に美を見いだす随筆「陰翳礼賛」を物語に仕立てあげたといったところでしょうか。これなら中学校の先生も安心して教えられます。

 

気の毒だったのは末っ子の妙子。駆け落ち騒ぎが新聞に報じられたのちは、手に職を得て自立を目指すものの、世間体にとらわれる身内やしつこくつきまとう男達が足かせとなって自由な生活を営めないのです。奔放すぎると周囲は批判しますが、今ならごく普通の若者。戦後に生まれていたら時代の旗手となっただろうに。

 

ラストシーンは美しさを追求する物語にそぐわないような下ねた。なぜに? と思わないでもありませんが(吉永さんが雪子役で出演した映画はどのように扱ったのだろう)、谷崎潤一郎にとって美とは何かを示すエピソードなのでしょう。

 

JUGEMテーマ:読書

小説 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

暗殺の森

第二次世界大戦前夜のイタリア。哲学を教えるマルチェロは友人を介してファシズム組織に身を投じ、フランスへ政治亡命した恩師クアドリを監視するために新婚旅行を装ってパリへ向かいます。

ところが、クアドリ宅を訪ねたマルチェロは恩師の妻に一目で惹きつけられ、暗殺指令を受け取った後も自ら決断を下すことが出来ません。業を煮やした組織はマルチェロに見切りをつけ、山中で行動を起こすのですが……

マルチェロがファシズムに身を投じる経緯が分かりにくい、というか、共感できず、この映画の最も肝心な部分で躓いてしまった。空っぽで長いものに巻かれる男だということは分かるけれど、その背景を理解できないために面白さが減じてしまいました。

ただ、何度も見てみたいと思わせる印象的なシーンが多かった。わけてもこの映画を支配していたドミニク・サンダ。きつい視線はデビュー作と変わらず、普通の男にはうかつに近寄れない雰囲気を漂せています。

バレエ教室でマルチェロに見せた挑発的態度は腰が引けそうになるし、その妻と踊るダンスシーンでは妖艶な同性愛的雰囲気にくらくら。一方で、暗殺者に追われて死を覚悟した顔には、こちらの心をえぐるようなリアルさが現れていました。

確かに惹きつけられる俳優です。身の回りにはいて欲しくないけど。

 

公式サイトはこちら

 

JUGEMテーマ:映画

映画 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

早春

蒲田から丸ビルの会社に通勤する若者たちはプライベートでも大の仲良し。その中で華やかな独身女性キンギョと妻のある杉山がハイキングを機に親しさを増し、現代的な恋愛観をもつキンギョが積極的にアタック。杉山は誘いに応じて一夜をともにしてしまいます。
 

成り行きだったにも拘わらず押しの強いキンギョにまとわり付かれて困惑する杉山君、仲間には意見されるし、妻には愛想を尽かされるしでふてくされ気味。
このままではまずいと分かっていながら現状から足を踏み出せない日々が続く折、遠い岡山山中への転勤話が持ち上がり、倦怠期を迎えていた夫婦生活をやり直すために異動を受け入れることにするのでした。

 

「お茶漬けの味」と逆パターンで、夫がありふれた日常生活のありがたさに気付き、心機一転、やり直しを誓うお話。
同じテーマを繰り返すのが小津監督のやり方ですからストーリー展開は容易に予想がついてしまいます。だからと言って興味が失せる訳ではなく、異なる俳優が見せる演技や漂わす雰囲気の違いを楽しめるのでした。個人的には浦辺粂子の達観した母親ぶりがベスト。

 

様々な最新機器で生活の場を埋め尽くされた現在から見た昭和30年頃の風物が純粋に興味深いです。空き地だらけの蒲田駅周辺。テレビのない夕食後の過ごし方。55才停年。元出生兵らの同期会。満員の通勤電車だけは今も昔も変わらないようです。

 

JUGEMテーマ:映画

映画 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

ツインピークス・ザ・リターン

放送は1年前ですが、ようやく見終わりました。これ、オリジナルドラマのファンでも相当数の人がついて行けなかったのではないかと想像されます。

リンチは何らかのメッセージを視聴者に伝えようとしているわけではない。これが今回ドラマも含め、長年リンチ作品を楽しませてもらった私の感想です。謎めいた場面ばかりで、見る側はそこに意味を探ろうとしますが、実は隠された意図などないのです(たぶん)。

表現欲求が旺盛で人並み外れた技法を有しているために、ついつい不可思議なシーンを作りすぎてしまうのだと想像します。技術力を駆使したくて仕方ないのでしょう。視聴者も頭の中が「?????」だらけになっても、圧倒的な映像の魔力に抗えない。

この体験って何かに似てると思ったら、現代アートを目にしたときの感覚に近いものがあります。強い意志と技術力は感じるけれど、(私には)普遍的価値が感じられない。ただ、前衛芸術は時代が移れば異なる評価を受けるものです。ツインピークスを含めたリンチ作品が20-21世紀の傑作と呼ばれる日が来ないとも限らないですよね。

そうそう、今回シリーズにひとつだけ古典的物語の要素がありました。エドとノーマとネイディーンの三角関係に決着がついたのです。この3人の物語を縦軸にツインピークスを再構築したら総合小説的世界が立ち上がりそう。

 

JUGEMテーマ:エンターテイメント

テレビドラマ | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

馬石、雲助の親子会

先週日曜日の新潟は38度超えの猛暑で外出がためらわれましたが、贔屓の師匠2人が揃うとあっては炎天下なにするものぞ。

今まで高座で雲助師匠が演じるところを見たことなかったのでとても楽しみにしていました。
やっぱり、目の前で演じてもらうと好いですなあ。独特な語尾の扱いと表情の変化がなんとも楽しい。演目も夏らしく「千両蜜柑」と「臆病源兵衛」を選んでくれました。

馬石師匠は浮世床から「夢の逢瀬」と昨年古町「藪蕎麦」で初回を演じた「名人長二」の2回目。昨年聞いた折には1年後まで話の内容を覚えていられるかしらと心配たものですが、ははは、歳を重ねると月日の経つのが速い。数日前に聞いたばかりのように記憶が鮮明で、違和感なく話に没入。まったくの杞憂に終わったのでした。来年も楽しみです。

 

JUGEMテーマ:芸能

 

落語・寄席 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

リザとキツネと恋する死者たち

元日本大使未亡人のアパートに看護師として住み込むリザ。外出もままならない彼女の楽しみは日本の恋愛小説と亡くなった日本人歌手「トミー谷」の幽霊が歌う歌謡曲。

ところが、このトミー君、リザに恋して彼女と永久に暮らしたいと願い、彼女に近づく男達を次々と亡き者にしてしまうのです。

リザはこの現象を「九尾の狐」に取り憑かれた自分のせいだと勘違い。もう恋愛など不可能だと思い込んだ彼女に小説のようなハッピーエンドはあるのでしょうか。

いやあ、笑った、笑った。特にトミー谷のおかしな70年代風ポップスにぐっときてしまった。ロカビリーやGSを思わせる軽快なリズムにツイスト系ダンス。すぐにサントラ欲しいと思いました(iTunes Storeで扱っていた!)。

外国人による勘違い的日本観で作られたのかと思いきや、制作者たちはリアルな日本に精通しているように感じます。その上で敢えて不思議な日本文化を作り上げてしまった(Eiko Todaさんなる人が監修している?)。歌謡曲の歌詞はその一例でして、違和感がないけれど、所々で混じる微妙な単語が日本人である私の心をくすぐるのでした。

人は大勢死んじゃうけど、コメディですから深刻さはゼロ。ポップで明るく、日本人以外の人だって陽気に楽しめる(と思う)ナイスな映画でした。ああ、楽しかった!

新潟ではシネ・ウインドでたった1回きりの上映。なんてもったいないんだ。再上映してくれませんかねえ。そしたらみんなにお勧めするんだけど。

 

公式サイトはこちら

 

JUGEMテーマ:映画

映画 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

日本以外全部沈没

筒井康隆に馴染みがあるかないかで、この映画の印象はずいぶん違うはずです。筒井ファンなら、原作を思わせるブラックユーモアにニヤニヤ。もし、筒井体験がなければ、ふざけんなーと叫びたくなるのでは。

一見するとあまりに差別的、あまりに偏見に満ちた内容で、大問題になること間違いなし。よく劇場公開できたものです。

筒井康隆自身が嫌みなおっさん役で登場していたり、日本沈没の映画、テレビドラマでそれぞれ主役を演じた2人が嬉々として(?)類型的な人物を演じていることをとっても、しゃれのきつい一種の文士劇で、内輪のお楽しみのために作ったのではないかと想像されます。

チープさ加減、呆然とするような設定に惑わされることなく、これは原作の意図を忠実に表現しているのだと考えると、現代社会に対する痛烈な風刺であり、自己愛に浸りきる人類に警鐘を鳴らす啓蒙映画として見ることも可能です。今の世界はまさにこの映画の描く状況に向かって一直線じゃないですか。

筒井さん、しばらくご無沙汰していましたが、また読みたくなっちゃいました。

 

JUGEMテーマ:映画

映画 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

憂鬱な10か月  イアン・マキューアン

胎児は胎内でどのような日常を送っているのでしょう。心臓をはじめ、胃、腸、膀胱など、母の内臓が活動するさまは感じているような気がします。では、母体が摂取する飲食物を血液の変化という形で認識するものなのか、また、外界で交わされる会話、環境音、音楽が何らかの形で伝わるものなのか、そして羊水と皮膚の向こうに光を感じるものなのか。

誰もが体験済みなのに誰にも答えられない疑問。マキューアンは新作でそこに目をつけています。しかも、この胎児は産まれるべきか、産まれざるべきか、胎内で苦悩するというのですから驚くほかはありません。

愛人と共謀して夫を無き者にしようとする母。計画が成就すれば、産まれた我が子を捨てるつもりで、失敗すれば、刑務所内で子育てをすることになるはず。語り手の胎児にとってはどちらも受け入れがたい運命です。

両親の手元で成長したい彼/彼女は父親殺害を阻止したいのですが、いかんせん起こせる行動は限られています。自らの力で運命を切り開くことが出来るのでしょうか。

マキューアンの小説はいくつか映画化されていていますが、この物語の映像化はハードルが高そうです。でも、難しいことにこそ闘志を掻き立てられる人たちが多いことも事実。どなたかチャレンジしてくれませんかねえ。絶対観に行きますよ。

 

JUGEMテーマ:読書

小説 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |