Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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終わらざる夏   浅田次郎

日本のポツダム宣言受諾で太平洋戦争は結着を見、全ての戦闘が終了したものだとばかり信じ込んでいました。ああ、無知とは恐ろしい。そしてなんと恥ずかしいことだろう。

 

玉音放送で日本の降伏が伝えられた後も戦闘は終わっていなかった。8月18日、ソ連軍は千島列島最北端の占守島に侵攻し、図らずも温存されていた日本軍との間で戦闘が「開始」されてしまったという。

 

浅田さんはその史実をもとに、またもや名作を紡ぎだしました。軍人・政治家にとって国民は机上の数字にしか過ぎません。でも、その数字の一つひとつがかけがえのない生を喜びあるいは苦悩していることを鮮やかにそして克明に描き出し、そのような人々をただの駒として扱わざるを得ない争いの愚かさを告発しているのです。

 

私が浅田小説を好むのは登場人物が善人であれ悪人であれ、それぞれが品格を備えているから。そして本作では作者の品格も感じられる結末となっていました。クライマックスシーンにおいて、敢えて事務的な報告書の体裁で主要人物の決着を描き、安直な涙を求めようとしないのです。これこそ優れた作家の技というものでしょう。

 

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婚約者の友人   フランソワ・オゾン

物心がついてから今日まで大小さまざまな嘘をついてきました。咎めだてされるのが嫌で、やったことをやらなかったと言い張ったことは数知れず。波風の立つ同居生活を家族知人の前では円満に見せたし、入院中の親に本当の病名を告げないこともありました。おそらくこれからも嘘をつき続けるでしょう。

 

この映画で主役を務める二人は、ともに他人の心の内を思い遣れる人たちです。その場の雰囲気を敏感に察知してしまうため、今ここで悲しい思いをさせたくないと、嘘が反射的に口をついてしまうのです。その結果は私たちと同じ。状況が微妙であるだけにさらに嘘を積み重ねることになってしまうのでした。

 

第一次世界大戦で婚約者フランツを失ったアンナは、彼の両親の元で暮らしながら死者を悼む毎日。ある日、墓前で頭を垂れる若者アドリアンに出会い、フランスで知り合いになったと語る彼の言葉に二人が友人同士だったと思い込むこんでしまいます。

 

彼をフランツの両親に引き合わせて親交を深めるうちに、アンナは自分がフランツに惹かれ始めていることに気づき、やがて大きな決心を固めるのですが、彼女を待ち受けていたのは失望なのでした。

 

アドリアンの嘘は成り行き上仕方なかったと理解できなくもありませんが、その嘘によって自らもさらに大きな嘘をつかなければならなくなったアンナが哀れでなりません。保身のためだったアドリアンの嘘と違い、彼女の嘘は自分を慈しんでくれる人たちを悲しませないためのものなのですから。

 

完全に行き場を失ってしまったアンナは、もしかすると異国で一人たくましく生きていくつもりなのかもしれません。くじけるんじゃないよと励ましたくなる一方、観客の私はやがてヨーロッパが第二次世界大戦に巻き込まれてしまうことも知っています。ドイツ人の彼女に新たな試練が待ち受けることは確実なのです。ああ、アンナよ、フランツの両親があなたの嘘を咎めだてることはないはず。傷が癒えなくとも、一刻も早く帰国してほしい。

 

モノクロとカラーが入り交じる画面はアンナの心の内を示しているかのようで印象的でした。わずかな表情の動きで内面の大きな変化を語る俳優達の演技もお見事。

 

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三体   劉慈欣

久しぶりにとんでもないものを読んでしまった。世界中で巻き起こった絶賛の嵐に、遅まきながら加わることにします。いやはや、スケールの大きさには圧倒されるばかり。科学的素養に乏しい私でさえも頁をめくる手が止まらず、この数日間というもの、どっぷりと三体世界に浸かったままでした。物語とはこうあってほしいと願うお手本のような推進力に引っ張り続けられました。

 

詳しくはいろんなサイトや雑誌で詳しく紹介されているので、内容に興味のある方はそちらを。私が惹かれたのは葉文潔という主役の一人でした。文革の狂乱の中で父を殺害され、やがて「沈黙の春」を手にした彼女は、人間の本質は悪であり、倫理的覚醒は人類以外の力が必要だと確信することになります。きっとこれが著者の世界観の基本であり、そして、現代に生きる大勢がそれに共感しているのだろうと想像します。

 

さて、葉文潔の下した決断が望み通りになるのか、あるいは人類は異星体と共存するのか、それとも襲来を退けるのか、第2部、3部が待ちきれない。早く続編の翻訳を!

 

……と書きましたが、実は英訳は3冊揃っているのでした。友人がプレゼントしてくれたものです(いつもありがとう!)。サインまで入っています。最初はこの英訳版に挑んだものの、文革当時の政治用語と物理学の記述にあえなく挫折(読むより辞書を引く時間の方が長かった)。日本語訳の登場を待っていたのでした。

 

第1部で方向性が分かったので、第2部以降はとりあえず英訳版で挑み、日本語訳が出たところでバトンタッチかなあ。なにしろ禁断症状が心配だ。

 

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ガープの世界   ジョン・アーヴィング

個人的ジョン・アーヴィング再読祭りの4冊目。ついにベストセラーに到達です。ここからアーヴィングはあっという間に世界的作家となり、今日に至るまで世の物語好きを満足させてくれています。


数十年ぶりに読んでみると、デビュー作以来の要素が全て融合され、さらに作中小説が次作の「ホテル・ニューハンプシャー」へと展開することに今更ながら気づきました。ガープとニューハンプシャーで自伝的要素(?)にけりをつけ、サイダーハウスからはいよいよ自由自在に物語を紡いでいったのですね。

 

しかし、よくこの物語が当時のベストセラーになったものです。なにしろ、暴力と偏見にあふれ、そこに希望や救いを見出せません。


主人公のガープにしたところで不寛容な人々に対して非常に不寛容です。女性運動の旗手に祭り上げられた母の暗殺をきっかけに他人の痛みを理解できるようになりますが、最後は不寛容な人物に殺害されてしまうという皮肉な結末なのです。

 

そもそも、自分の身の回りでこんなカラフルな事件は起きないよなと思うけれど、アーヴィングの手にかかるとそこに非常なリアルさを感じるから、あら不思議。私たちの人生はこういうものだと納得させられてしまう。そして、作中の悲しく滑稽な出来事を体験させられたにもかかわらず、「生きている間は楽しもう」と思わせてくれるあたりが人気作家たるゆえんなのでしょう。

 

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Us   デヴィッド・ニコルズ

息子アルビーの大学進学を控えたある日のこと、研究施設で働くダグラスは芸術家の妻コニーから離婚話を持ち出されることに。その決心が揺るがないと悟るや、最後の記念に親子3人でヨーロッパ各地を巡るグランドツアーをもちかけるのですが、本当の目的は旅行中に妻と息子から尊敬を勝ち取って再び家族に戻ること。さて、ダグラスの目論見やいかに。

 

無心にページをめくることが楽しい一冊でした。それもそのはず、小説、映画ともに人気を博した「ワン・デイ」のデヴィッド・ニコルズがその5年後に発表した小説で、英国の文学賞受賞作なのです。夫婦・親子関係の危機に直面した男の奮闘と失望、そして最後にほの見える希望というプロットは現代の物語の王道。キャラクターづくりはうまいし、欧州各地の美術館を巡るストーリーは観光ガイドにもなるし、映画化されたらこれも受けそうです。

 

軽すぎるんじゃないかという気もしますけれど、たぶん作者は文学を目指して書いているわけではないでしょう。楽しい時間を過ごしてくださいね、と娯楽に徹しているように感じます。アルコールなどを傍らに置いて仮想旅行を楽しむにはお勧めな一冊です。

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桜桃の味   アッバス・キアロスタミ

山の木の根元に掘った穴の中で睡眠薬自殺を企てるバディ。望みが叶った暁に土をかけてくれる協力者を探し続けますが、信仰に篤い人々は大金を提示されても首を横に振るばかり。

 

ようやく申し出を受けてくれたのは病気の子供の治療費が必要な老人バゲリでした。しかし彼は自殺を思いとどまるよう説得を続けます。淡々としたその言葉は閉ざしたはずの心の隙間から染み入るような滋味にあふれていました。バゲリを麓へ送り届けたバディは約束を守ってくれるよう再確認し、丘から夕暮れの町を見渡します。彼の目にその風景はどのように映っているのでしょうか。

 

バディは協力を依頼する際「もし死んでいたら」という一言を付け加えています。おそらく彼は、自死を思いとどまらせてくれる人を探していたのでしょう。

 

依頼を引き受けたバゲリもまた自殺未遂者でした。体験者が「自分が変われば世界が変わる」と言うとき、その言葉はある種の重みを持ってバディの心に沈んだに違いありません。そしてバゲリは、季節は移ろうものであり、人生は終わりへ向かう旅に過ぎない。神はこの世を素晴らしく創りあげてくれたのだからそれを楽しまない手はない。君は桜桃のあの素晴らしい味を忘れてしまったのかと続けるのでした。

 

結局バディは夜中にタクシーで山中に向かい、穴の中に身を横たえます。しかし、それはこの世に別れを告げるためではなく、生まれ変わった人間として翌朝老人に助け起こしてもらうためなのだと感じます。

 

悩みのない人間などいない、辛くなったら桜桃の味を思い出せ。静かな励ましの映画なのだと思います。私はサクランボではなく、ビールとふきのとうの天ぷらの味を思い出すことにしよう。

 

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仮装人物   徳田秋声

徳田秋声作品はこれが初めて。調べてみると、晩年に書かれたもので他とはだいぶ作風が違うようです。この一冊だけで秋声の印象を語るのは難しそう。

 

そんな断りを入れるのは、読んでいてずいぶんイライラさせられたからなのです。この男女のもつれあいは秋声の実体験を基に書かれているそうなのですが、自然主義文学って奔放な私生活の切り売りなのか? 文学の名のもとに登場させられたモデルたちはさぞかし辛い目を見ただろうなあ。短期間でこの一派が衰退したのも不思議ではありませんね。

 

とはいえ、読後数日が経過してみると、世間の好奇の目を承知で理性的に生きることがでない庸三と葉子がなんだかけなげに感じられ、読書中の嫌悪感が消え失せているから不思議です。他の作品も読んでみたくなってしまった。秋声の感想はそれからにしよう。

 

震災後から戦前にかけての風俗は純粋に興味をそそられますね。とりわけ小説家の地位が高く、大金を稼いでいることにはびっくりします。世間の注目度が高く、新聞に醜聞が報じられるんですからね。

 

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男と女 人生最良の日々   クロード・ルルーシュ

子どもの寄宿学校で知り合い、ほんの束の間、激しく心を通い合わせたアンヌとジャン・ルイ。53年後に再会した二人は手探りするように関係を築き直し、互いに残された時間を最高のものにしようと歩き出すのでした。

 

いやあ、期待していなくてごめんなさい。前作「男と女」より、今回の方が数段味わい深い映画に仕上がっていました。時の流れは人にこれほどの変化をもたらすものなのですね。主役二人が同じキャスティングということもあり、重ねた経験の深さに説得力がありました。

 

二人のアップを見ていると時間の流れは残酷なものだと切なくなる一方で、まだ「最良の日々を生きていない」、楽しみはこれからだと感じている人達は実にチャーミングなものだと羨ましくもなりました。肉体に無残な爪痕を残す時の流れはそれと同時に、人の心に芽生えた憎しみや恨みなどの気持を少しずつ流し去ってくれるのでしょう。

 

回想シーンでジャン・ルイが明け方のパリ市内を疾走します。運転席から前方を映し出すだけの5分間。聞こえるのは高回転で唸るエンジン音、石畳をこするタイヤの鳴き声、そして男の息づかいだけ。これが実に実に良かった。

 

なんとしてもアンヌを駅で迎えるんだ、何がなんでもあの女をもう一度この腕に抱くんだ。記憶さえおぼろなジャン・ルイの胸の内には、今もその熱い思いが息づいているはずです。

 

おそらく前作撮影時のフィルムだと思いますが、50年前の「男と女」にこのシーンはなかったように思います。あの映画にこれが加わっていたら。

 

公式サイトはこちら

 

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早春の角田山 2020

外出が制限される今日この頃ですが、ここ角田山は親子連れで大盛況。灯台脇の駐車場も観光バスの姿こそ無いものの、ざっと100台程のクルマが駐まっていました。山頂や観音堂では青空の下、老いも若きもそれぞれに楽しそう。子ども達の歓声も開放的な山の上では微笑ましいばかりです。

 

春の訪れは例年より早いようで、3月15日現在、既にゆきわり草やオウレンが最盛期。カタクリやショウジョウバカマも姿を見せ始めていました。来週はどこから登ろうか、どの花を目当てに行こうか。楽しみな日々が続くぞ。

 

 

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蓼喰う虫   谷崎潤一郎

要と美佐子の夫婦は性的不一致のために離婚予定。しかも、妻が新しい男と毎日のように逢瀬を重ねていることも夫は容認しています。ただ、子供が幼いため、その日をいつにするのかぐずぐずと決めかね、あまりの煮え切らない二人の態度に、仲介役の友人も呆れ気味。

 

そんな日々にあって、要は妻の父親につきあって、度々浄瑠璃見物に出かけます。最初は全く興味のわかなかった要でしたが、淡路島のひなびた浄瑠璃に触れ、その素朴な芸に魅せられはじめ、やがて女性に対する好みにも変化が生じる気配が。

 

さて、いよいよ離婚話の決着をつけるために老人宅を訪ねた要は、外で話をする妻と老人を待つことになります。その間、老人と30歳以上歳の離れた妾、お久と二人きりとなり、薄暗い明かりの中で見る彼女の顔が淡路島で見た人形の顔に重なって感じられるのでした。

 

現代日本社会においてこの夫婦の有り様は特に珍しくもありませんが、発表当時は斬新だったかもしれません。いかにも谷崎小説らしい設定です。しかし、この小説の本題は、老人の口を通して語られる古い日本的価値に対する賛美であるように思いました。少々強引に挿入される浄瑠璃の描写がくどすぎるほど詳細で、本筋より力が入っていますからね。「陰影礼賛」を小説に仕立て上げたらこんな感じかな。

 

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