Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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蒲団   田山花袋

有名なラストシーンはなかなか強烈な印象を残します。ただ、読み手の私もいろいろ経験を重ねてくると、主人公の行為を単純に「気持ち悪い!」と斬り捨てることができないなあ。

 

兼業作家の時雄が妻子ある身でありながら同居させた内弟子の若さにくらくらしてしまい、妻を亡きものにして後添えに迎えたいと懊悩する姿は確かに醜悪です。恋心を募らせるながらも世間の目を恐れるあまり、想いを告げることも妻と別れることもせず、ひたすら悶々とするだけだなんて、全くもって文学者の態度とも思えない(いや、文学者だからか)。

 

策を弄した挙げ句に芳子を失った主人公に対しては、自業自得だよねと思うものの、いや、お前だって人のことは言えないだろうという声がどこからともなく聞こえてくるような。恋愛に限らず、様々な欲望と世間体の間で足掻くのが人というものですから。私もずいぶんじたばたしました。

 

この小説では時雄の周囲の人々が、文学者という表向きの態度にひたすら恐れ入ってしまうのだけれど、心の内でどんなことを思っていたのやら。妻は芳子に彼氏が出来たことで「無用な心配はしていません」という態度に変わりますが、本当は若い体に未練たっぷりの夫の気持ちを見抜いていたと思うのです。芳子本人も中年男の欲望を感じながら、その想いを逆手にとって居候を決め込み、自分の都合の好いように利用していた可能性だってあります。人の気持ちばかりは分かりません。

 

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A Spark of Light   ジョディ・ピコー

ミシシッピ州ジャクソン。人工妊娠中絶に反対するグループが取り囲むリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)クリニック、通称「センター」で発砲事件が発生。犯人と人質解放交渉を行う警官のヒューは通常の事件とは異なる緊張状態にさらされていました。人質の中に姉と高校生になったばかりの自分の娘が含まれていたのです。

 

人質解放交渉を行う緊迫の場面から始まり、時系を当日朝に向かって辿りながらセンターに居合わせた人々の人生の一部をつまびらかにするという構成です。彼らの人生を肯定するかのような視線はとても温かい。

 

群像劇として充分面白い小説ですが、作者の意図は米国における人工妊娠中絶を巡る問題に一石を投じることのようです。ミシシッピ州では受胎後16週を過ぎると処置が行えず、違反者は殺人罪に問われると知り、驚いて調べてみると、米国では中西部州を中心に多くの州で妊娠中絶を制限する非常に厳しい法案が成立していました。しかし、大きな矛盾をはらんでいるうえに人権侵害であるとして重大な政治問題化しているようです。次の大統領選挙でも争点の一つだとか。

 

作者は結論を提示していません。インタビューによれば、妊娠中絶に賛成・反対両者の主張を中立的に取り上げ、互いの意見に耳を傾けるよう促したいのだとか。受胎の瞬間から人権を認めるべきなのか、その場合、性的被害に遭った女性の人権とどちらが優先されるべきなのか。そして、人は定められた運命に抗うことができるのか否か、様々に考えさせられる小説でした。

 

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薔薇は死んだ   アッティラ・スアース

第一次世界大戦前夜のブダペスト。高級娼婦エルザの遺体が納められたバスケットがドナウ河畔に流れ着くところから映画は始まります。

 

エルザが新しい使用人カトゥを雇い入れたことが事の発端。彼女の屋敷では同じく元娼婦であり友人・愛人同士でもあったロージが家事を取り仕切っていました。そして豪奢な生活を支えているのは建築家のマックス。

 

4人がそれぞれに対して抱く気持は複雑で矛盾を抱えています。それは当事者同士の過去の人間関係に起因する感情の発露によってめまぐるしく変化し、マックスを頂点とする序列上位者が下を従属させているという構図も状況によって容易に逆転したりするのです。3人の女と1人の男の抜き差しならぬ愛憎劇は泥沼化、若きカトゥの将来にも暗雲が漂うのでした。

 

ブダペストの街並みは美しく、そして女性3人の演技も素晴らしかった。中でもエルザ役パトリシア・コヴァーチの妖しさには魂ごと吸い寄せられてしまいそうでした。うかつに知り合いになったら間違いなく骨抜きにされてしまい、自分も又バスケットに入れられて岸辺に流れ着いてしまうかもしれない。おお、こわ。

 

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渚にて   スタンリー・クレイマー

冷戦下でついに核戦争が勃発し、既に北半球の人類は滅亡。わずかに生き残ったのはオーストラリア大陸の人々と、海中を潜航していた米原潜乗組員のみ。オーストラリアが放射能に汚染される日も迫ったある日、豪海軍は米サンディエゴからの無電を受信。誰が打電したのか調査するため、潜水艦は母国へ向かうことに。

 

今見てもスリリングな設定にどきどきします。核兵器の拡大競争が続いていた当時は今よりもっと現実味があったはずですし、実際、数年後にはキューバ危機が起こっています。いよいよ映画が現実のものとなる、という恐怖が世界を覆っていたと想像します。

 

映画としてはストレートでなんのひねりもないけれど、制作者の目的は「思いとどまるなら今しかない」と真正面からメッセージをぶつけることだったのでしょう。その内容が今もなお有用であることが残念で、そして恐ろしい……

 

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野口哲哉展 鎧の中で−富山編−

哀愁を帯びた表情の武者たち。おお、なんだこれは! 樹脂を用いたフィギュアと古びた味わいの絵画に一瞬で心を奪われてしまいました。

 

どちらも鎧兜姿の人物に現代のモノを組み合わせているところが共通で、これが何ともユニーク。最も分かりやすい特徴です。これを見て顔がほころばないわけがない。

 

そして驚くのは小さな人物たちの表情です。うわあ、この人達生きてる。体温すら感じるじゃないか。

 

彼らは姿形こそ武者ですが、浮かべる表情、漂わせる雰囲気は今を生きる私達と何も変わらない。仕事に疲れて放心したり、音楽に恍惚としたり、失敗に落ち込んだり、叶わぬ夢を夢見たり。だからこそ一層リアルさが際立つように感じます。

 

何はともあれ、作品の前に立って驚いてください。写真撮影もOKです。

 

 

 

 

 

8月25日まで富山市森記念秋水美術館で開催中。

 

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初めての磐梯山

友人に誘われて磐梯山まで足を伸ばしました。爆裂の跡が特徴的な姿は馴染みがあるけれど登るのは初めて。

 

最もポピュラーな八方台登山口に足を踏み入れると、まず左右に広がるブナ林の美しさに目を惹かれます。年を経た大木が漂わす威厳に満ちた雰囲気には、自ずと畏敬の念が湧き上がるのでした。

 

裏磐梯の湖沼群と吾妻連峰が見渡せる弘法清水にたどり着くと遠足の子どもたちで大賑わい。ざっと見たところ小学生から高校生まで200人以上はいたようで、そこから山頂までの急登は大渋滞。人気の山なんだと驚きました。

 

360度が見渡せる山頂からの眺望は見事でした。吹く風も涼しく、青空と水を湛えたいくつもの湖を眺めていると地上の暑さを忘れるというものです。

 

弘法清水までの登山道は勾配も緩やかで、もちろん小学生でも問題なし。歩き慣れた角田山五箇峠コースを2往復するような感じでしょうか。機会があれば他のルートからも登ってみたいと思いました。

 

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夜   ミケランジェロ・アントニオーニ

人気作家ジョバンニ・ポンターノ夫妻の虚ろな一日をスタイリッシュに描いた映画。

 

ジョバンニは将来を嘱望され、妻リディアは資産家の娘。若くして名声も富も約束された2人でしたが、その愛情は冷め始めていたようです。

 

末期の友人を共に病院に見舞い、サイン会に出席した後は無言のままに別行動。退屈な夜を避けるかのように富豪のパーティーを訪れた際も、それぞれが気になる相手を見つけて軽いお楽しみに興じ、その場面を目撃しても嫉妬心すら湧き上がりません。夜明けを迎えた2人は互いの心が離れてしまったことを確認したのでした。

 

映画としてはクールに過ぎて、私向きではなかった。俳優の表情には魅入られてしまいましたけど。若きマストロヤンニの憂鬱な雰囲気には引き込まれるものがあるし、徹底的に冷めたジャンヌ・モローの無表情が、当事者でもない私の心を不安に陥れるのでした。

 

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月と六ペンス   サマセット・モーム

ゴーギャンをモデルにした物語ということで、発表当時大ベストセラーになったそうです。

 

美を創造するために全てをなげうったストリックランドの人生を知人である作家が回想するという構成のため、画家の美に対する価値観、創造の苦悩を読者が直接窺うことは叶いません。あくまでも、他人の目に映る破天荒な行動からその胸の内を察するほかないのです。没後に評価されなければ彼の情熱は簡単に忘れ去られたことでしょう。

 

むしろ最も丁寧に描かれていたのは、ストリックランドの才能を最初に発見した画家のストルーヴでした。彼は優れた審美眼を持ちながら絵の才能は凡庸に過ぎないというなかなか悲しい役柄。

 

どれほど邪険にされようと、利用されようと、ストリックランどを見捨てることはありません。果てに妻を奪われて激しく落ち込んでいるにもかかわらず、いつか二人が自分の下にもどれば喜んで迎え入れるつもりなのです。お人好しでは美を創造できないということなのでしょう。ストリックランドが月でストルーヴが六ペンスか。

 

今回最も印象に残ったのは中野好夫さんの訳文でした。奥付の初版日付は昭和34年。ということは、おそらく昭和30年代初めの仕事だと思われますが、実にこなれた訳文でいきいきとしていた。最近は改訳が流行りだけれど、これはこのまま現代でも違和感が無い。いや、すばらしい仕事です。

 

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誰もがそれを知っている   アスガー・ファルハディ

妹の結婚式に出席するため、アルゼンチンからスペインの小さな村に里帰りしたラウラと子どもたち。お祝いムードに浮き立っていた一家ですが、パーティー中に娘のイレーネが誘拐されてしまいます。その場の状況から犯人は身内か親しい知人と推測され、小さな村は疑心暗鬼に陥ることになるのでした。

 

タイトルが示す公然の秘密を推測することや、犯人捜しが映画の主題ではありません。誰もが知らないふりをしていた事柄を当事者同士が口にすることで、一見調和が保たれていた家族や村の関係にひびが入り、事件に係わった全ての人たちは傷を抱えながらの再出発を余儀なくされてしまうのです。私たちの平穏な暮らしは実にもろい土台の上に成り立っているという認識を緊迫感のある画面が要求します。

 

誰もが知り合い同士であるという狭い共同体は、ハレの席で一体感のある盛り上がりを見せる反面、恨みや嫉妬などが根深くいつまでも消えないという息苦しさがつきまとう。そのような背景の見せ方が舌を巻くほど巧みでした。俳優もその舞台に溶け込み、過剰な表現ではないにもかかわらず、説得力のある演技を見せていました(パコ君、気の毒すぎます…)。

 

時々こういう作品に当たるから映画館通いが止められないんだなあ。

 

公式サイトはこちら

 

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デトロイト美術館の奇跡   原田マハ

財政破綻から危機的状況に陥った年金財源を守るため、市美術館の所蔵品を売却すべきという世論が高まっていた米デトロイト市が舞台。セザンヌの描いた「マダム・セザンヌ」に魅せられた人々を物語の中心に据え、所蔵品を「友人」のように愛する人々が美術作品と年金財源を共に救った奇蹟のようなお話。

 

原田さんの美術関連小説は、どれをとってもアートに対する愛情が感じられ、気持ち良い時間を過ごすことができます。この作品ではアートを心の糧として慈しむ人々の暮らしが愛おしく、また「マダム・セザンヌ」に深く分け入っていく作者の想い(妄想?)を楽しめました。

 

 

本作の主人公と言える「マダム・セザンヌ」を3年前のデトロイト美術館展(東京)で実際に目にする機会がありました。あのときはピカソとマティスの熱量に圧倒され、モディリアーニのキラキラするような美しさに魅入られたものでした。ゴーギャンの肖像やゴッホの寝室も印象的。でも、そんなきらびやかな作品の中で「マダム・セザンヌ」は実に地味だった。

 

評価の高い作品ということもあり、じっくり向き合ってみたけれど、なんだかモデルがつまらなそうにしているように感じただけでした。会場を一回りした後にもう一度絵の前に立ってみたけれど、小説の登場人物たちのように親しみを覚えることは出来なかったなあ。

 

どうもセザンヌは私の作家ではないようですが、それはそれとして、美を求める人たちの物語には引きつけられて止むことがありません。

 

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