Un gato lo vio −猫は見た

映画やらスポーツやら小説やら、あれやこれや。
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そして、デブノーの森へ

デビュー作「冬の旅」で文壇の寵児となったセルジュ・ノヴァクことダニエル。義理の息子の結婚式に向かう船中で魅力的な女性ミラと知り合い一夜を過ごしたが、なんと彼女は息子の花嫁だった。
そして、ミラの登場は偶然ではなく、「冬の旅」盗作を巡る大がかりな復讐劇の始まりに過ぎなかった。

緊迫感漂う展開に引き込まれるうち、ついつい事の真相を解明したくなってしまい、あれこれと頭を悩ませてしまいました。
そもそもダニエルが下した決断の理由が腑に落ちないし、最後にはダニエルと自殺した友人ポールが入れ替わっていると示唆するかのようなシーンが用意されています(そうなると、いろいろと辻褄が合わなくなりますが…)。

いったい、どうなっていたんだ? と映画を振り返ると「人は単純ではない」と言ったダニエルの言葉が思い出されました。
そう、人間の思考や感情は複雑なものだし、本人だって完全に理解しているとは言いがたい。
そう思えば、この映画の見どころは謎解きではなく、本人の意思に反して移ろいゆく人の気持ちの不思議さ、抑えきれずに噴出する感情の高まりにあるのだと感じられてきます。

謎は謎のままに残しておけばいいのでしょう。複雑なものごとを分かりやすくまとめて解決したつもりになっていては、人生の機微を味わうことができない、そう教えられたような気がします。

 

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赤いアモーレ

クルマが故障した外科医ティモーテオは通りかかった掃除夫イタリアに電話を借り、一目で彼女を気に入ってしまう。
妻と不足のない暮らしを送るティモーテオだったが、イタリアへの思いは狂おしいほど。やがてイタリアは子を身ごもり、ティモーテオは人生の判断を迫られる。

情欲におぼれた身勝手な男の独りよがりな愛の行方を描いたお話、と言ってしまっては身も蓋もないけれど、役者の演技力によって人の世の辛さを感じさせる印象的な映画に仕上がっていました。

ティモーテオは妻との暮らしを守るべきかイタリアと新しい人生を始めるべきか大いに葛藤しています。一見感情に乏しい表情は、判断に苦しみ、あらゆる思考が停止してしまったが故なのかもしれません。
イタリアのゆがめた口元やがに股歩きは見ていて切ないなあ。身に降りかかる悪事をあきらめと共に受け入れる姿。ペネロペ・クルスは幸薄い人生を体当たりで演じていました。
そして、夫の心をつかめない不安に怯える妻エルサ。不幸を予感しているかのような表情に私の心も揺れました。
これが俳優の演技というものでしょう。

ティモーテオは多くの人から勝手な男とそしられるだろうし、私もそう思います。
一方で、制御できない感情に突き動かされて逸脱しても構わないと思う気持ちも理解できる。社会規範からはみ出さず、良識ある人として暮らすことは難しいものです。

ところで、邦題ひどすぎませんか?
ソープオペラみたいだな。

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ジヴェルニーの食卓

マティスとピカソ、ドガ、セザンヌ、モネの人生を垣間見せてくれる4つの物語を収めた短編集。

新しい絵画の時代を代表するこれら画家の作品は各種の展覧会でたびたび目にする機会があり、身近な印象を覚えていましたが、さて、ご本人たちについて思いを馳せると具体像が何も浮かばす、身近とはいいがたい存在でした。

原田さんは画家を取り巻く人たちの目を通して彼らの日常や制作の現場を再現して見せ、彼らが創作に苦悩するばかりではなく、ささやかな出来事に心を楽しませたり、些事に煩わされたりする一人の人間であったことを示してます。

印象派の作品そのもののように光に満ちていて、できるものなら額に入れて飾っておきたいと思わせる美しい物語たちでした。

 

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娘よ

カラコルム山脈を望む山岳地帯に暮らすアッララキとザナイブの母娘。部族長である一家の主ドーラットは他部族と血で血を洗う抗争のまっただ中にあり、和平協定を結ぶ条件として小学生の娘を相手部族長に嫁がせることに。
自らも幼い花嫁としてドーラットに嫁いだアッララキは、娘を守るために逃亡を決意。2人は女性にとって制約だらけの社会、そして厳しすぎる自然の中で自由への道を見つけることができるのか。

母娘の情愛を描きながら、舞台となった地域の問題を世に問う映画でした。
昔から新聞は読まないし、雑誌類とも縁遠くなりました。テレビとラジオもスポーツと音楽だけ。当然、世の中の動きに疎くなっているわけですが、「知らないからおれには関係ない」という態度は許されないのだ、と己を戒めることとなりました。

現代社会においても制約に絡め取られた人々が存在する。それを知ったからといって、私が何か特別な行動を起こすわけでもありません。ただ、一人でも多く、そのような事実があることを心に留めることが社会の潜在意識となり、いつかより良い世界への芽吹きとして現れてくれれば、と願うことはできる。

赤土と岩ばかりの山岳地帯、どこまでも広がる砂漠。そんな荒涼とした風景の中にあって、あでやかな母娘の衣装、菅原文太が腰を抜かしそうなほどに飾り立てられたトラックのきらびやかさ、遠くに望む雪を抱いたカラコルム山脈の神々しさはこの世のものとは思えないほどの眩しさでした。

 

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The World According to Bob(ボブがくれた世界 ぼくらの小さな冒険)

ボブを世界的有名猫にした「ボブという名のストリート・キャット」の続編です。

両親の離婚をきっかけに薬物依存症となり、若くしてホームレス生活を送っていたジェームズ君でしたが、「ビッグイシュー」を路上販売することで、なんとかその日暮らしを維持できるまでに快復。
ある日、そんな彼の前に迷い猫が現れ、「選ばれてしまった」ジェームズ君はアパートで共同生活を送ることに。

ひとつの命を預かったジェームズ君の生活はその日を境に変わり始めます。やがて、彼らは互いの孤独を癒し合い、ベストパートナー、ソウルメイトとして絆を深め、ついにはストリート生活と決別、希望を獲得することになるのでした。

猫好きにはたまらないエピソード満載です。ただ、この著作の魅力はチャーミングな「ボブ」の活躍だけにあるのではありません。どん底の暮らしにあえぎ、なんとかそこから這い上がろうとするジェームズ君の努力と挫折が、本人の率直な言葉で、しかも、深刻にならない口調で記されている点が共感を誘い、世の中で苦闘する大勢の人々に対する新たな視線を提示してくれたことが素晴らしい。

ボブはジェームズ君の生活を救っただけではないのです。まさにスーパーキャット。

そう、そしてこの本を読んでいる間中、共に過ごした猫たちとの思い出がまざまざとよみがえり(私も猫に選ばれた口でした)、楽しくも切ない気持に浸ってしまいました。最後に残った雄猫との日々を大切に過ごそう、改めてそう思わせてくれた1冊です。

 

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初恋

受験を控えた夏を過ごすため、両親と共にモスクワの別荘を訪れたウラディーミル(ヴォリデマール)君、16才。隣家に滞在していたのは夫の死で困窮生活を余儀なくされた公爵夫人と21才の美しい娘ズィナイーダ。

一目で恋に落ちたウラディーミル君でしたが、ライバルが目白押し。こりゃあ、最年少の自分に勝ち目はないなあ、と思いつつ、あこがれのお姉様を追いかけ回すのですが、実は本当のライバルが意外なところに潜んでいるのでした。

種明かししてしまいますが、ズィナイーダがあこがれたのはウラディーミル君の父親。なんという、嫌な状況でしょう。

妻が10才年上で、金銭尽くの結婚だといっても、息子の恋愛対象を奪うことはないじゃないですか。40にして迷わずどころか、ズィナイーダを別邸に囲ったり結婚を迫ったりと、若者顔負けの猪突ぶり。息子の人格形成に影を落とすなんてことは想像の埒外のようです。ああ、こまった親父だ。でも、それが恋というものなのかなあ。

奥付の発行日を見ると、私は高校1年か2年の頃にこの本を読んでいたようです。でもあの頃、本当にこの物語を楽しんだとは思えない。再読して良かった。併載の「片恋」は一転して、煮え切らない性格故に恋を失う男のお話。これも同様楽しめました。

が、どちらにしろ、貴族のお坊ちゃまたちは気楽で好いよなあ、という身も蓋もない感想も浮かんだりするのです。

カバー写真の女優が気になって調べたところ、なんと、ドミニク・サンダでした。映画「初恋」が3作目。
デビュー作「やさしい女」ではトラブルのにおいを紛々とさせた挑戦的な視線が印象的でした。
映画も観てみたいな。

 

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おやすみなさいを言いたくて

世界の紛争地区で報道写真を撮り続けるレベッカ。誰かが真実を伝えなければならないという強い衝動を家族が理解していると思っていたが、夫も2人の娘も彼女が死亡する可能性に怯え続けていた。
 

報道写真家であるより家族を選ぼうと一度は決意するものの、彼女の中にある「怒り」が収まることはなく、再び紛争地へ向かうことに。しかし、長女との関係修復を果たしたレベッカは、これまでどおり冷静な目で取材対象を見ることができるのだろうか。
 

正義感と家族への愛の間で揺れ続けるレベッカ。報道写真家としての資質を失うかのようなエンディングでしたが、私は彼女が立ち直り、最終的には仕事を選ぶような気がします。
 

人の仕事観は大別して2つ。仕事のために生きるか、それとも、生きるために仕事をするか。どちらが正解ということはありませんが、仕事観の違う2人が家庭を持てば、そこが紛争地帯になることは避けようがありません。
 

レベッカの正義感は間違っていない。そして、妻であり母親である彼女の身を案じる家族の気持ちもまっとうなものです。ただ、それは共存できない。相容れない理性と感情が切ない人の世です。

 

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若冲  澤田瞳子

芸術に接するとき、作品のみを鑑賞してその存在を味わう、または、作家の境遇を知り、創作の苦心を斟酌しながら味わうといった異なるアプローチがあると思います。若冲はその生涯が明らかになっていないため、近年では(辻惟雄さんが再発見した後)作品そのものの力だけで人々の心を掴んできました。ところが、澤田さんが苦悩に満ちた絵師の人生を描いてくれたことにより、絵に込められた思いを想像(妄想)しながら鑑賞するという楽しみが開けました。

もちろん、小説は想像の産物。あくまで小説家の創作ですから、若冲作品の正しい解釈というわけではないでしょう。でも、こんな風に想像することも可能なんだと示してくれたことに目から鱗が落ちる思いでした。

若冲の詳細すぎる彩色絵に対して、現在は「動植物の姿がリアルに描かれた生命賛歌」という感想が多数を占めています。しかし、澤田さんは「鬱屈した異様で生気を感じない絵」だと評し、その原因を架空の設定及び人物の存在に帰しています。いやはや、小説家の面目躍如というところですね。

そんな澤田さんも「鳥獣花木図」だけは生の喜びに満ちた作品だと評価し、若冲の到達点として扱っています。小説を読み進むうち、3年前、実際にこの目で見た折の心の昂ぶりが甦ってきました。あれは本当に楽しい絵だった。そして、己の独自性を屈託なく自慢しているようにも感じられ、いつまでも絵の前から離れられなかったことを思い出します。

 

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危険なプロット

生徒の稚拙な作文にうんざりしていた高校教師のジェルマンは新学期を迎え、クロードが提出した課題に惹きつけられる。友人の家庭をのぞき見的に描写した文章に才能を感じたジェルマンは熱心な指導を行いながらその虜となり、ミイラ取りがミイラになってしまうことに…

人の心の奥にあるものを見透かし、手玉に取ってしまうティーンエイジャー。こんなやつがいたら嫌だなあ。私は歳は食っているけれど、絶対に操られてしまう。

オゾン監督の映画には独特なアクがあるけれど、私の好みには良く合いまして、既に何作も楽しませてもらいました。
キャスティングも好みです(過去はランプリングとドヌーヴが良かった)。学校では尊大な態度を取りながら、家庭では従順な夫を演じるファブリス・ルキーニ。見る者に嗜虐心を芽生えさせるようなとぼけた味わいがナイスでした。

 

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In the Month of the Midnight Sun セシリア・エクバック(Cecilia Ekbäck)

スウェーデン内陸部ブラッカセン山を仰ぐ小さな村。教会で3人が殺害される事件が起こり、犯人とおぼしきラップ族の老人が逮捕された。先住民の蜂起を恐れた法務相は養子である地質学者マグヌスに現地調査を命じ、同時に、頭痛の種である娘ロヴィサを同行させて厄介払いを目論む。

到着した村は謎めいた雰囲気に包まれていた。子どもの姿が見あたらず、住民はマグヌスの質問に固く口を閉ざす。そして教会脇ではラップ族の老婆が一人きりでキャンプ生活を送り、村はずれには彼らが作った迷路。いったいこの村はどんな秘密を抱えているのか…

基本は事件の真相を探るミステリー。調査の進展と共に、村で起きた過去の忌まわしい事件とラップ族の集団で起きた事件が交錯し合い、悲劇の連鎖が続くことになります。

謎解きの楽しみとは別に、まず、白夜の北極圏という日本人の私には完全に異世界な舞台そのものに強く惹きつけられました。そしてあの世から語りかけるラップ族シャーマンがもたらす呪術的な雰囲気。「ツイン・ピークス」ほどあざとくはないけれど、読み手の興味を逸らさない設定にまんまとはまってしまったのでした。

彼の地で図らずも出自の秘密を知ってしまったマグヌスと、生き延びるために文明社会から身を隠すことになるロヴィサのその後が気になります。
謎解きはなくても構わないので、2人のその後を、そして村のその後を書いてほしいと思うのでした。

 

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